高速アナログフォトカプラの応用例と汎用フォトカプラの高速化

6N135: 1.842 Mbps, TLP521: 115.2 kbps

hp 6N135
Revised 2026-07-19
2012-06-08
Takayuki HOSODA

概要

6N135/6N136 (HP/Agilent/Avago/Broadcom) はトランジスタ出力の高速 (1 MBd) アナログ伝送用フォトカプラで、 かれこれ 30 年以上に渡って使われているロングセラーである。 これらは GaAsP の LED とフォトダイオードと NPN トランジスタで構成され、 入出力間の絶縁のため LED と光検出器との間にポリイミドフィルムを用いている。 個別のフォトダイオードとトランジスタのおかげでコレクタ・ベース間容量がフォトトランジスタ型の ものに比べて小さく、何十倍も高速に動作できる。

セカンドソースも豊富で(Evarlight, Fairchild, Lite-On, Toshiba, Vishay など) この速度カテゴリの中では最も安く入手できるものの一つである。 6N135/6N136 の UL認定絶縁耐圧(1分)は 3.75 kVrms、アナログ帯域幅は約 10 MHz(@1Vp-p)で、ビデオ信号や高速サーボ制御の アイソレーションなどに適している。 デジタル用途でもフォトトランジスタ型のフォトカプラに比べて十倍以上速く、 非飽和領域で動作させた場合には 1.842 Mbps での伝送も可能である。 これらの性能を生かして産業機器の動作中や耐雑音試験中の信号波形をオシロスコープ でモニターしたりデータのログをとるといった用途にも適用がある。

TLP521 (Toshiba) は往年の名機とも言える GaAs IR LED とフォトトランジスタで構成される汎用フォトカプラである。 安価で当時の他の汎用フォトカプラに比べてスイッチング特性に優れていたため、産業機器から民生品まで、 こちらもかれこれ 30 年以上に渡って幅広く使われていた。 ディジタル用途に汎用フォトカプラを単純プルアップで使った場合の伝送速度は 19.2 kbps 程度であるが、 外付け回路により大きく、例えば 115.2 kbps 程にまで改善することが可能である。 TLP521 は廃品種になって久しいが、高速化の手法は他の汎用フォトカプラにも適用可能である。

目次

高速アナログフォトカプラ 6N135/6N136 アナログ伝送への応用例 6N135/6N136 のデジタル伝送への応用例 汎用フォトカプラ TLP521 の応用例

高速アナログフォトカプラ 6N135/6N136 アナログ伝送用の応用例

ACアイソレーションアンプ

6N135/6N136 を CTR (Current Transfer Ratio) がリニアな領域で使うことにより 1Vpp の入力に対して 3% の直線性を得ている。

6N135-AN
fig.0 回路 AN - 6N135 ACアイソレーションアンプ
Avago 6N135 データシートより転載、赤点は元の回路図に抜けていた接続点。

fig.0 の回路では、フォトカプラの出力トランジスタと Q2 で直結アンプを構成し、Q2のエミッタから 15 kΩ を通して負帰還をかけている。
オーバーオールのゲインはこの帰還抵抗と RT とで微調整できる。 Q2 の 100Ωのエミッタ抵抗で Q2 のバンド幅が最大になるようにコレクタ電流を決めている。 Q3 はバッファ用のエミッタフォロワである。

デジタル伝送用の応用例

6N135 単純プルアップ

schematic-pu
fig.1 回路 PU - 6N135 単純プルアップ

コレクタを抵抗でプルアップしただけの最も簡単な使い方である。 こんな簡素な回路でも 230.4 kbps 対応程度の伝送速度が得られる。
6N135 の CTR (current transfer ratio) は最小 7% (@If = 16 mA) なので、順方向電流 If = 16 mA として、 コレクタ電源 Vcc を 5 V で使う時にはプルアップ抵抗は 4.1 kΩ 以上である必要がある。

If を減らせるかどうかは CTR に依存し、6N135では最悪条件には適合しないので要注意。

ここではプルアップ抵抗は 4.7k Ωとし、トランジスタの飽和を浅くしてオフ時間を改善する実験のため If = 7.8 mAに減らしている。
後段に 7SHU04FU(@Vdd=3.3V) を使用した場合のビット誤りの発生しなかった使用可能な最大ビットレート (以降 最大ビットレート と略す)は 460.8 kbps であった。

eye pattern
fig.2 回路 PU アイパターン (@230.4 kbps)

eye pattern
fig.3 回路 PU 遅延時間 (@230.4 kbps, average=256)
tpd↑↓ ≈ 298.9ns, tpd↓↑ ≈ 884.6 ns

6N135 SBD (Schottky barrier diode) クランプ

schematic-sb16
fig.4 回路 SB - 6N135 SBD クランプ

6N135/6N136 の出力トランジスタのコレクタをショットキーバリア・ダイオードでクランプして蓄積時間の短縮を図った回路。

ベース端子はハイインピーダンスな箇所であるので SBD の洩れ電流に注意が必要。

蓄積時間は短縮されているがダイオードの容量のミラー効果で立上り/立ち下がり時間が遅くなっていて、 単純プルアップの回路と比較してパルス幅歪は改善されるものの、伝送速度としては同程度(230.4 kbps 対応)である。 後段に 7SHU04FU(@Vdd=3.3V) を使用した場合の最大ビットレートは 921.6 kbps であった。

eye pattern
fig.5 回路 SB アイパターン (@230.4 kbps)

eye pattern
fig.6 回路 SB 遅延時間 (@230.4 kbps)
tpd↑↓ ≈ 252.6 ns, tpd↓↑ ≈ 1.018 μs

6N135 SBD クランプ + ベースバイアス

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fig.7 回路 SBBB - 6N135 SBD クランプ + ベースバイアス

SBD クランプに加えて、出力トランジスタがオフになりきらないようにベースに 450mV 程のバイアスをかけつつ、 ターンオフ時のベースの蓄積電荷の放電経路を設けたものである。

ベース端子はハイインピーダンスな箇所であるので SBD の洩れ電流に注意が必要。

SBD クランプに比べて立ち上がり時間が改善されてパルス幅歪が改善されている。 そのおかげで伝送速度も 460.8 kbps 対応レベルに改善されている。 後段に 7SHU04FU(@Vdd=3.3V) を使用した場合の最大ビットレートは 921.6 kbps であった。

eye pattern
fig.8 回路 BB アイパターン及び遅延時間 (@460.8 kbps)
eye pattern
fig.9 回路 BB アイパターン及び遅延時間 (@230.4 kbps)
tpd↑↓ ≈ 376.1ns, tpd↓↑ ≈ 827.5ns
CH1: Input, CH2: Output (SBBB), Ref1:Output (SB)

6N135 フォールディッドカスコード

schematic-fcfb
fig.10 回路 FC - 6N135 フォールディッドカスコード

出力トランジスタを非飽和領域で使用しコレクタ出力をPNPトランジスタの ベース接地回路で受けることによりミラー効果の低減と高速化を図った回路。 PNPトランジスタの SBD クランプも行っている。

出力がプルダウンであるためシンク能力が低いので 'L'レベル入力電流 IIL の大きい TTL入力の IC に接続するのには適さない。
CTR や使用するトランジスタやダイオードにより部品定数の最適値は変わるので製品に使用する場合には十分な検証が必要である。

単純プルアップに比べ動作速度もパルス幅歪も大幅に改善されて 遅延時間 tpdは 200ns 程となり伝送速度 1.8432 Mbps 対応レベルとなっている。 後段に 7SHU04FU(@Vdd=3.3V) を使用した場合の最大ビットレートは 1.8432 Mbps であった。 1 Mbps 対応程度であれば R7, R8 および R9 は無くてもかまわない。

eye pattern
fig.11 回路 FC アイパターン(@1.8432 Mbps)
propagation delay
fig.12 回路 FC 遅延時間 (@1.8432 Mbps)
tpd↑↓ ≈ 165.6 ns, tpd↓↑ ≈ 202.6 ns

実のところ 1ch のデジタル伝送なら素直に 10 Mbps デジタル伝送用の 6N137 等を使う方が安くて簡単で良い。

Appendix 汎用フォトカプラ TLP521 の応用例

TLP521 (Toshiba) は往年の名機とも言える GaAs IR LED とフォトトランジスタを使用した汎用フォトカプラである。

TLP521 単純プルアップ

tlp521-pu schematic
fig.13 回路 PU' TLP521-1(GR) 単純プルアップ

フォトトランジスタ型の汎用フォトカプラを単純プルアップで使った場合の 動作速度、特に立上り時間はプルアップ抵抗の値で決まる。 19.2 kbps の通信速度に対応するにはコレクタ抵抗の値を 1k Ω 近くにまで下げる必要がある。

後段に 7SHU04FU(@Vdd=3.3V) を使用した場合の最大ビットレートは 57.6 kbps であった。

tlp521-pu eye pattern
fig.14 回路 PU' アイパターン (@19.2 kbps)
tlp521-pu-tpd
fig.15 回路 PU' 遅延時間 (@19.2 kbps)
tpd↑↓ ≈ 6.39 μs, tpd↓↑ ≈ 10.27 μs

TLP521 フォールディッドカスコード

tlp521-fc schematic
fig.16 回路 FC' TLP521-1(GR) フォールディッドカスコード

飽和動作で使うと遅いフォトトランジスタ型の汎用フォトカプラも、非飽和領域で使用すると劇的に動作速度が改善する。 回路 PU' に比べて If を 2 mA まで減らしているにも関わらず 115.2 kbps 対応レベルになっている。 後段に 7SHU04FU(@Vdd=3.3V) を使用した場合の最大ビットレートは 230.4 kbps であった。

出力がプルダウンであるためシンク能力が低いので 'L'レベル入力電流 IIL の大きいTTL入力の IC に接続するのには適さない。
CTR により If や R1 の最適値は変わるので製品に使用する場合には十分な検証が必要である。

tlp521-fc eye pattern
fig.17 回路 FC' アイパターン (@115.2 kbps)
tlp521-fc tpd
fig.18 回路 FC' 遅延時間 (@115.2 kbps)
tpd↑↓ ≈ 2.59 μs, tpd↓↑ ≈ 2.43 μs

TLP521 バイアス付きスイッチカスコード (BSC, Biased-Switch-Cascode)

tlp521-jfet-bsc schematic
fig.19 回路 BSC TLP521-1(GB) バイアス付きスイッチカスコード (SW1:ON)

「立ち上がりが遅いのなら切り離せばよくない?」…そんな考えで、FET をアナログスイッチとカスコードの狭間で利用して、出力特性を改善している。 fig.19 における SW1 を閉じてバイアスを与えた方がが立ち上がり特性が改善し eye が開く。この構成をここでは BSC (Biased-Switch-Cascode) と称している。

tlp521-jfet-bsc eye-pattern
fig.20 回路 BSC 遅延時間 (@115.2 kbps)
t↓ ≈ 1.8 μs, t↑ ≈ 2.9 μs, tpd↓↑ ≈ 3.00 μs

回路 PU' に比べて If を 2.7 mA まで減らしているにも関わらず、また、回路 FC' に比べて簡素な構成で 115.2 kbps 対応レベルが得られている。

バイアス付きスイッチカスコード

特許第6310139号 に記載の、汎用フォトカプラの出力特性改善技術 OCSwifter の一つである。

受光側がフォトトランジスタの汎用フォトカプラにおいて、 コレクタ抵抗が比較的大きい場合の伝送レートは、主にオンからオフへの立ち上がり時間によって制限されている。 フォトカプラのフォトトランジスタがオンからオフに立ち上がり始めた時点で、 フォトトランジスタのコレクタ出力をコレクタ出力とプルアップ抵抗の間に挿入したアナログスイッチで切り離せば、 アナログスイッチの容量とプルアップ抵抗との時定数で決まる速度にまで、立ち上がり時間が低減できる。 フォトトランジスタのコレクタ電圧はコレクタ電流にかかわらずカットオフ電圧から0Vの範囲になるため、フォトトランジスタのコレクタから見て低抵抗となり、 フォトトランジスタが飽和状態からの回復時には、カスコード接続と同様にミラー容量の低減効果が得られる。 また、FETのソースにカットオフ電圧をやや超える電圧のバイアスを加えてやることにより、FETスイッチがオフになるのを早めることができる。

重要な注意点

TLP785 バイアス付きスイッチカスコード (BSC, Biased-Switch-Cascode)

TLP521 はディスコンになって久しく、メーカー(Toshiba)による推奨代替品は TLP785 であった。 TLP521 → TLP785 で特性は、 VCEO 50 → 80 V, Topr -50 to 100 → -50 to 110 °C, BVs, RMS 2.5 → 5 kV と主要特性が向上しているが、その一方、 ts 15 → 25 μs, tOFF 15 → 25 μs とスイッチング特性は遅くなっている。

fig.19 と同一の実験回路で、ISO1 を TLP521(GB) から、TLP785(GR) および TLP785(GB) に変更した場合のスイッチング特性を測ってみたところ、 遅延時間が 3.0 → 8.8 および 9.5 μs と大きく、TLP521 では可能であった 115.2 kbps でのデータ伝送は能わず、どうにか 57.6 kbps での伝送が出来るといったところであった(fig.21, 22 参照)。

ターンオン時間に関しては、実測値で約 1.8 → 1.3 及び 1.1 μs と短くなっていることから推察するに、 TLP521 では内部のフォトトランジスタのベースに蓄積キャリアの放電用の抵抗が設けられていたのではないかと思われる。

また、変換効率の高いものの方が遅延時間が遅いのは、ベースへのキャリアの蓄積が大きいからと考えられる。

tlp785gr-jfet-bsc eye-pattern
fig.21 回路 BSC 遅延時間 (TLP785(GR), @57.6 kbps)
t↓ ≈ 1.3 μs, t↑ ≈ 3.3 μs, tpd↓↑ ≈ 8.8 μs
tlp785gb-jfet-bsc eye-pattern
fig.22 回路 BSC 遅延時間 (TLP785(GB), @57.6 kbps)
t↓ ≈ 1.1 μs, t↑ ≈ 3.2 μs, tpd↓↑ ≈ 9.5 μs

私見だが、パッケージの違いを許せば、TLP521 の上位互換は TLP2301 ではなかろうか。

SEE ALSO

REFERENCE

  1. Broadcom's 6N135 Single Channel, High Speed Optocouplers
  2. Toshiba TLP521-1 Photocoupler (Phototransistor output) — Discontinued
  3. Toshiba TLP785 Photocoupler (GaAs IRED & Photo-Transistor) — Recommended TLP521 replacement … but it's actually quite slow
  4. Toshiba, TLP2301 Photocoupler (GaAlAs IRED & Photo-Diode/Transistor) — 20 kbps, Recommended for new design
  5. Toshiba TLP293 Photocoupler (GaAlAs IRED & Photo-Transistor) — Low If, Recommended for new design
  6. Toshiba TLP2367 IC Photocoupler (GaAlAs IRED & Photo-IC) — 50 Mbps