An NTC thermistor approximation function
NTC サーミスタの近似関数

2010年11月18日
細田 隆之

 測温用の NTC サーミスタ (Negitive Temperature Coefficiet thermistor) の特性は一般的に 25 ℃の時の抵抗値 R25 と いわゆる B 定数で表されることが多いのですが、B 定数による近似式では 25 ℃から離れるに従い誤差が増大します。 これを3係数の近似式にすることにより、抵抗値の中央値に対して全温度範囲で、例えば誤差 ±0.2 ℃ 以内に近似することができます。


B 定数による近似

市販の NTC サーミスタでは、近似式用のいわゆる B 定数が特性値としてデータシートに記載されています。 例えば、村田製作所の 1.0×0.5mm サイズの高精度 NTC サーミスタ NCP15XH103D03RC の カタログ値では R25 = 10 KΩ±1%, B(25/50℃) = 3380±0.7%, B(25/100℃)(typ.) = 3455 となっています。

B 定数による NTC サーミスタの近似式
T_\mathrm{C}  \approx  \frac{1}{ \displaystyle\frac{1}{273.15 + T_\mathrm{n}} + \frac{1}{B} \ln\left(\frac{R_T}{R_\mathrm{n}}\right)} - 273.15 … (1) B 定数1つだけによる近似では、その定数を決めた温度範囲以外では誤差が大きくなります。 また、誤差と温度範囲はトレードオフの関係になり、近似温度範囲を広くとると誤差は大きくなります。 fig.1 Reference : Simple approximation 参照。
fig.1 NTC サーミスタの中央値に対する近似誤差

3係数による近似

B 定数だけを用いた指数関数近似では、非線形な NTC サーミスタの温度特性を使用温度範囲全域において精度よく近似することはできません。 しかしその誤差が2次関数的であることに着目して、 下記の式 (2) に示されるピュイズー級数 (Puisux series) 的な近似の補正を行うことにより、 全使用温度範囲において誤差の少ない近似を行うことが出来ました。fig.1 参照。

3係数による NTC サーミスタの近似式
T_\mathrm{C} \approx T_{\mathrm{n}} + c \left( - 1 + \sqrt{1 + a \left( - 1 + \displaystyle\frac{1}{1 + b \ln\left(\displaystyle\frac{R_T}{R_\mathrm{n}\right)}\right)}}\right) … (2)

3係数の近似式における部品依存の係数 a, b, c は、 指定した温度範囲における誤差の絶対値が各々の部品に中央値に対して最も少なくなるように コンピュータのプログラムを用いて求めています。 例えば先の NCP15XH103D03RC に対しては、

a = 0.382030
b = 0.0822526
c = 1695.3664
を用いています。この場合、-40 〜 +125 ℃ の温度範囲において ± 0.044 ℃ 以内の近似誤差が得られています。

結論

上に述べた3係数による NTC サーミスタの近似式を使うことで、 2010〜2022 年現在においてポピュラーな多くの NTC サーミスタにおいて、 その中央値に対して、例えば -40 〜 +125 ℃の全温度範囲で ± 0.2 ℃ 以内の近似誤差が得られました。 先に述べた高精度サーミスタにおいては、抵抗温度特性表からの表引きや補完によらず、 計算によって抵抗値から温度が全温度範囲で ± 0.044 ℃ 以内といった低い近似誤差で求めることができているため、 温度計測を伴う装置の高度化に貢献できることが期待されます。

追補 — 3係数による近似を用いた NTC サーミスタの抵抗値→温度変換例

NTC thermistor  

RT : Resistance     [Ω]
TC : Chip temperature ≈     ±   [°C]

For coefficients of other NTC thermistors,
Download ntc2tc.js — javascript source code

追補 — NTC サーミスタのレシオ・メトリック構成

NTC サーミスタで温度を測るときに抵抗値を直接測らず、 基準電圧をサーミスタと固定抵抗で分圧して、その分圧比としてサーミスタの値を測る、 レシオ・メトリック動作で測ると基準電圧の絶対精度の影響を受けずに済みます。 このとき、固定抵抗にサーミスタの 25 ℃での値と同じ抵抗値のものを使うと 25 ℃を中心にした対数の有理近似となり 25℃を中心にリニアライズされます。 NCP15XH103F の場合、フルスケールの 3/4 程に -25 〜 85 ℃ の計測値が収まることになります。 逆に考えるとサーミスタが断線や短絡した場合には異常として検知することが出来るとも言えます。

 fig.2 レシオメトリック構成の NTC サーミスタ (Murata, NCP15XH103F) の温度と 12-bit ADC 読み取り値

参考文献

  1. NCP15XH103D03RC 抵抗温度特性表 — 村田製作所 サーミスタ(温度センサ)
  2. 細田 隆之, "私の部品箱[8]高精度NTCサーミスタ NCP15XH103F03RC", トランジスタ技術 2012 年 7 月号 p.222, CQ出版社

履歴

2022年 1月19日 加筆
2023年 4月 5日 加筆

関連項目


www.finetune.co.jp [Mail] © 2000 Takayuki HOSODA.
Powered by
 Finetune