Electronic circuit design engineer training course (1)
F0114A in-circuit continuity checker - Circuit and design details Rev.1.21 (Aug. 30, 2024) (c) 2020, Takayuki HOSODA
www.finetune.co.jp
電子回路設計技術者育成講座 (1)
F0114A - 音で判る導通チェッカ
回路・設計詳説
有限会社ファインチューン 細田 隆之
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完成品及び製作キットの提供の終了にともない解説記事を公開しました (Aug. 30, 2024)
記事内容の無断転載および文書での許諾無しの商用利用はお断りします。
概要
F0114A はデジタルマルチメーターよりも直感的な、音で判るインサーキット導通チェッカです。
元々は実用を兼ねてフレッシャーズ向けのはんだ付けの練習と電子回路の初歩として設計したものです。
一見簡単に見える回路でも、「アナログ回路設計には幅広い知識と応用と実践が必要」という例になっていて、
電子回路設計に携わるエンジニアの育成用教材となるように考慮してあります。
特徴
音程で、約 100 Ω 〜 10 MΩ の違いがわかります
音程の下がる時間で 1 μF 〜 100 μF のキャパシタの違いがわかります
導通に対して即座に音が出るため多ピン中の違いも素早く判別できます
Si 接合ダイオードの順方向ではほとんど電流が流れないため実装回路中で使用可能です
SiSB ダイオードの順方向では部品により流れる電流が異なるため音で違いがわかります
導電スポンジの導電性などの確認もできます
低測定電流 5 μA 以下(RDUT ≤ 10 Ω, 常温)で被測定回路に悪影響を与えにくいです
低測定電圧 300 mV 以下(RDUT ≤ 10 MΩ, 常温) で被測定回路に悪影響を与えにくいです
高信頼、低消費電流で電源スイッチなしで長期間に渡って即座に使用できます
注意
■ 電池は+−を逆に入れない
■ 端子間に 5 V を超える電圧を加えない
🚫 守らないと破裂、発火、故障の原因となります。
はじめに
回路・設計詳説では理工系のフレッシャーズ向きの解説を行っています。
コラムでは回路設計に携わるエンジニアの実務寄りの解説を行っています。
回路解説中の回路は LTSPICE 等でシミュレートできるようになっているため、
発展的にアナログ回路シミュレータの使い方を学ぶことができます。
併せて、シミュレーションと本書に付属の実際の回路を測定した場合との違いを考察などで、
実験や測定、あるいはモデリングのセンスを磨いていくことも可能です。
回路・設計詳説
目次
コラムや Appendix は▼をクリックまたはタップで展開します
略号
回路図
あらまし
抵抗–電流変換
カレントミラー
電流制御発振器 (ICO)
シュミット・トリガ
・ヒステリシス
電流積分
・積分キャパシタ
・充電時
・放電時
・発振周波数
抵抗以外の DUT
・DUT が短絡の場合
・DUT がキャパシタの場合
・DUT がダイオードの場合
・DUT が電圧源の場合
・DUT が開放の場合
入力保護
保護素子
圧電サウンダ駆動回路
出力バッファ
出力保護抵抗
直流阻止キャパシタ
LED駆動回路
電源(電池)
消費電流
電源供給
・保護
・デカップリング
・電源用大容量 MLCC
電池寿命
プリント回路基板
仕様
演習問題
Appendix 1 部品の特性と定格(抜粋)
Appendix 2 数学公式と変換表(抜粋)
コラム
1. 略号
BJT : Bipolar Junction Transistor, バイポーラ接合トランジスタ
CMOS : Complementary Metal-Oxide-Semiconductor (Field-Effect Transistor)
DUT : Device Under Test, テストされるデバイス
FET : Field-Effect Transistor, 電界効果トランジスタ
HCMOS : "high-speed" CMOS, 高速 CMOS
h FE : エミッタ接地直流電流増幅率
JFET : (Silicon) Junction Field-Effect Transistor, 接合型電界効果トランジスタ
MOSFET : Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor, 金属-酸化物-半導体 電界効果トランジスタ
MLCC : Multi-Layer Ceramic Capacitor, 積層セラミックキャパシタ
SiSBD : Silicon Schottky Barrier Diode, シリコンショットキーバリアダイオード
2. 回路図
fig.1 [回路図]
3. あらまし
DUT(Device Under Test, 被検体)は、fig.1 中 T+, T- 間に接続されてテストされます。
R1 で決められている電流が Q1 と DUT によるワイドラー型電流源 (Widlar current source) 回路により、
DUT のコンダクタンスに合わせて Q1 のコレクタ電流に変換されます。
Q1 のコレクタ電流は C1 により積分され CI 点の電圧となります。
CI 点の電圧が U1A の上昇入力閾電圧 V T- を下回ると U1A の出力が High レベルになり、
C1 は Q2, R4 により放電されます。
CI 点の電圧が U1A の下降入力閾電圧 V T+ を超えると U1A の出力が Low レベルになり C1 の放電は停止します。
この繰り返しにより、DUT のコンダクタンスに応じた周波数で U1A は発振します。
U1A の出力は U1F による反転出力と合わせて、差動信号 {NL, NH} となります。
D2 は U1A が発振動作をしているときに点灯する LED インジケータです。
差動信号は出力バッファ U1E, U1D, U1B, U1C と R5, R6, R7, R8 を経て差動出力信号となり、
C4 で直流分を阻止した上で圧電サウンダ PZ1 を駆動します。
4. 抵抗–電流変換
fig.2 は fig.1 のコンダクタンス–電流変換のために使用しているワイドラー型電流源回路の解説用回路図です。fig.1 での T+ と T- 間に 10 kΩ の抵抗が接続された場合を例にとっています。
fig.2 [カレントミラーと積分キャパシタ]
Q1 と Q2 はマッチドペア (matched pair) トランジスタと呼ばれる、V BE や
h FE (エミッタ接地直流電流増幅率) の揃ったトランジスタのペアです。
tbl.1 に実際のマッチドペアトランジスタ PMP4201Y (NXP) の規格例を示します。
tbl.1 [Vbe , hFE マッチング]
カレントミラー
カレントミラーは1つの能動素子を流れる参照電流を、
別の能動素子を制御して参照電流に比例した出力電流が、負荷に関係なく一定になるようにする回路です。
Q1 と Q2 はマッチドペア (matched pair) トランジスタと呼ばれる、V BE や
h FE (エミッタ接地直流電流増幅率) の揃ったトランジスタのペアで、
主に同じウエハーの隣り合ったトランジスタで作られています。
NPN バイポーラトランジスタを2つ使った基本的なカレントミラーでは、
2つのトランジスタの諸特性が等しくかつ、コレクタ電圧が等しいときには2つのコレクタ電流は等しくなります。
電流源に流れる電流は2つのトランジスタのベース電流を含むため、出力電流はその分少なくなります。
[基本的カレントミラー]
出力側トランジスタのコレクタ — ベース間電圧が 0 より大きくなった場合には
コレクタ電流は増加します。
コレクタ電圧が高くなるとベース — コレクタ間の空乏層の増加に伴い実効ベース幅が減少する結果、
コレクタ電流が増大するからです。
この効果を最初に解析を行った J. M .Early に因んでアーリー効果 (Early effect) と呼びます。
[アーリー効果とアーリー電圧]
トランジスタの能動領域 (active region) においてコレクタ — エミッタ間電圧の増加に伴うコレクタ電流の増加のグラフの接線がコレクタ電流が0の軸と交わる時の電圧を
アーリー電圧
V A
とし、コレクタ — ベース間電圧が 0 の時のエミッタ接地順方向直流電流増幅率を
β F0
すると、アーリー効果によるエミッタ接地順方向直流電流増幅率
は、次の式で表されます。
小信号用のプレーナ型の SiBJT ではアーリー電圧は 100 V 程度ありますので、
コレクタ電圧の変化が少ない場合にはあまり問題になることはありませんが、
電圧増幅段等のコレクタ電圧が大きく変化する箇所では歪などの原因となります。
ワイドラー型電流源 (Widlar current source)
ボブの愛称で呼ばれる、Robert Jhon Widlar (November 30, 1937 — February 27, 1991)
は IC オペアンプの創始者として認知されています。
また、バンドギャップリファレンスも彼によって開発されました。
フェアチャイルドセミコンダクターとナショナルセミコンダクターで活躍し、
リニアテクノロジーの創立者の一人でもあるワイドラーのおかげで、
今のリニア IC 産業があると言っても過言ではありません。
[LM10 の回路設計を吟味する Widlar (1977頃)]
最初に市販されたモノリシック IC オペアンプは、
フェアチャイルド・セミコンダクターが 1963 年に発売した μA702 です。
ワイドラーが最初に開発した μA702 は npn バイポーラプロセスの制限で使いにくいものだったのですが、
その欠点を克服するためにプロセスエンジニアとワイドラーが共同で開発した、
ラテラル PNP トランジスタを採用して開発した μA709 が 1965 年に発売されました。
μA709 はその優れた特性により爆発的に売れて IC オペアンプのマイルストーンとなりました。
現在、ワイドラー型電流源と呼ばれる回路は、
基本的な2トランジスタカレントミラー (current mirror) の 出力側トランジスタのエミッタ側に退化抵抗 (degeneration resistor) を入れるように変更した回路です。
[Widlar の IC 用低電流源の特許]
この回路は 1965 年にワイドラーにより特許出願されて、同年発売の μA709 内で使用されています(下図 Q10, Q11, R11) 。
[μA709A 回路図]
モノリシックオペアンプの入力バイアス電流を減らすためには、
初段の差動アンプのエミッタ電流を減らす必要がありました。
この電流源回路は、モノリシック IC の中では実現しにくい高抵抗を使わずに、
低い値の電流源を実現するために発明されました。
fig.2 の Q1, Q2, R1 に Re が接続されたところはワイドラー型電流源回路を構成します。
その参照電流、Q2 の I e2 と
V be2 は電圧源 V1 とR1 で決まります。
Q1, Q2 に使われている PMP4201Y の V be
の特性はそのデータシートより fig.3 のようになっています。
fig.3 [ベース‐エミッタ電圧]
I c < 1mA の小電流領域では、
トランジスタ内の等価直列抵抗の影響が減って V be がリニアログ (linear-log) で直線になって
Ic が少ない方向への外挿 (extrapolation) が可能です。
fig.3 を元に外挿してR1 : 680 kΩ を負荷線とした交点を求め、Q2 の動作点とします (fig.4) 。
動作点での V be2 ≈ 0.49 V, I c2 ≈ 3.7 μA となっています。
fig.2 の回路では R1 には Q1 のベース電流
I b1 = I c1 / h FE1
も流れますので動作点は僅かに変動します。
fig.4 [Q2 の動作点]
また、同じく PMP4201Y のデータシートの h FE 特性 fig.5 によると
I c が 10 μA 程度の小電流域でも h FE
が常温で 250 前後はあると考えられるので、
I e2 = I c2 (1 + 1 / h FE2 )
≈ 1.004 × I c2 程度となります。
fig.5 [h FE (エミッタ接地電流増幅率) 特性]
PMP4201V (NXP) のデータシートより転載
バイポーラトランジスタの Ebers‐Moll モデルの近似式
によれば、
Q1, Q2 のエミッタ電流 I e1 , I e2 は、
… (1)
… (2)
I es1 : Q1 のエミッタ飽和電流
I es2 : Q2 のエミッタ飽和電流
V be1 : Q1 のベース‐エミッタ間電圧
V be2 : Q2 のベース‐エミッタ間電圧
q : 素電荷 : 1.602176634 × 10-19 C
k : ボルツマン定数 : 1.380649×10-23 J K-1
T : 絶対温度
と表されます。VT はサーマルボルテージ
(thermal voltage)
と呼ばれ、300 K 辺りで約 26 mV です (fig.7)。
Ebers–Moll モデルの近似式
西暦 1954 年に Jewell James Ebers と John L. Moll が
トランジスタに流れる電流の数学的モデルを提示しました。
Ebers–Moll モデルについて、
寄生素子を含まない真性トランジスタの端子電流を考えると、
I B は、
B–E (ベース・エミッタ) 間と B–C (ベース・コレクタ) 間に流れるダイオード電流
I ED ,I CD の和で表されます。
コレクタ電流 I C には、I CD の他に、
エミッタからベースに注入されコレクタに流れる少数キャリアによる拡散電流 α F I ED が加わり、
エミッタ電流 I E には同様に I ED に α R I CD が加わります。
ここで,α F または、α R は、
ベースに注入された少数キャリアがベース領域を通り抜けてコレクタまたは、エミッタまで到達する比率を表しています。
この比率をベース接地電流増幅率と呼びます。
以上より真性トランジスタの等価回路は下図に示すように2つのダイオードと2つの電流源で表現できることになります。
[順方向能動モードの NPN トランジスタの近似 Ebers–Moll モデル]
Wikimedia commons より転載
Ebers, J.; Moll, J. (1954). "Large-Signal Behavior of Junction Transistors". Proceedings of the IRE (Volume:42, Issue:12, Dec. 1954)
… (7)
α F : 順方向ベース接地電流増幅率
α R : 逆方向ベース接地電流増幅率
I B : ベース電流 [A]
I C : コレクタ電流 [A]
I CD : コレクタダイオード電流 [A]
I E : エミッタ電流 [A]
I ED : エミッタダイオード電流 [A]
I ES : エミッタ飽和電流 [A]
V BE : ベース‐エミッタ間電圧 [V]
k : ボルツマン定数 1.380649×10-23 [J K-1 ]
q : 素電荷 1.602176634 × 10-19 [C]
T : 接合部温度 [K]
サーマルボルテージ (thermal voltage)
0 K では、半導体中の荷電粒子は静止しています。ゼロエネルギー状態とも言えます。
温度が上がるにつれて荷電粒子は温度に比例したエネルギーを得ます。この比例定数がボルツマン定数 k です。
ボルツマン定数はある温度でのランダムに移動する多くの粒子の平均エネルギーを表します。
荷電粒子が移動すると電界を発生し電界の中の荷電粒子はポテンシャルエネルギーを持つことになります。
このエネルギーが熱エネルギーのみからのものであると仮定すると、
温度 T におけるエネルギー k T の 単位電荷 q 当たりのエネルギー、
即ち電圧は k T / q と表されます。
この電圧は温度に起因するのでサーマルボルテージと呼ばれ、一般に VT と表記されます。
CODATA 2017 基礎定数の特別調整 (Committee on Data for Science and Technology, 2017 special fundamental constants adjustment)
2019年 5月 20日に施行された SI の定義でプランク定数 h 、 素電荷 (電気素量) e 、
ボルツマン定数 k , アボガドロ数 N A が定義値となりました。
プランク定数 h 6.626 070 15 × 10-34 J s (exact)
ボルツマン定数 k 1.380 649 × 10-23 J K-1 (exact)
素電荷 e 1.602 176 634 × 10-19 C (exact)
アボガドロ定数 N A 6.022 140 76×1023 mol-1 (exact)
それにより、気体定数 R も正確に
R = N A k = 8.314 462 618 153 24 J K-1 mol-1 (exact)
となりました。そしてキログラム原器はその役割を終えました。
[日本のキログラム原器]
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2017/pr20171024/pr20171024.html より転載
ケルビン K もボルツマン定数 k によって定義されることになり、セルシウス度は ケルビン + 273.15 で定義されることになりました。
[Glasgow University by the River Kelvin]
https://co.pinterest.com/pin/549791066983500883/ より転載
因みにケルビンの名は、イギリスの物理学者で、絶対温度目盛りの必要性を説いたケルビン卿ウィリアム・トムソンにちなんで付けられました。
なお、ケルビン卿の爵位名は彼が研究生活を送ったグラスゴー大学の近くを流れるケルビン川を指しています。
(1) 式を変形し、
… (3)
(3) 式の左右を入れ替えて、両辺の対数を取ると、
… (4)
となります。ここで、Q1, Q2 がマッチドペアであることから
I es1 = I es2 = I es として両辺の差をとると、
… (5)
と表されます。
エミッタ電流 I e1 , I e2 の使用範囲が
1×10-9 A < {I e1 , I e2 } < 1×10-3 A 程度として、
小信号マッチドペアトランジスタ(e.g. PMP4201)のエミッタ飽和電流は 2×10-14 A
程度であるので、
{I e2 , I e1 } ≫ I es
として I es を無視すると、
… (6)
V be2 - V be1 = I e1 R e なので、
… (7)
I e1 は、W 0 をランベルトのオメガ関数 (Lambert W function) の主枝として、
… (8)
となります。W 0 (0) = 0, W 0 ′ (0) = 1 なので、
R e → 0 のとき I e1 → I e2 になります。
ランベルトのオメガ関数 (Lambert W function)
Lambert W 関数は、フランスの Johann Heinrich Lambert (1728年8月26か28日‐1777年9月25日) に因んでつけられた、オメガ関数 (omega function) または乗積対数 (product logarithm) とも呼ばれる多値関数で、
関数 f (w )= w e w の逆関数の分岐です。
ここで、w は任意の複素数で、e w は指数関数です。
Lambert W 関数の値が -1 以上の主枝 (principal branch) を
W 0 と表します。
簡単な電子回路にでも出てくる W 関数ですが、
Maple や Mathematica あるいは MATLAB のような計算機代数システムは別として、
大方の関数電卓にも表計算ソフトウェアにも実装されていません。
グラフ作成ソフトウェアの gnuplot には lambertw として実装されていますが、
手軽な計算には不便なので、
W 0 ( x )
を求める C の関数と、
e W 0 ( x )
を求める関数電卓用のプログラムを書いてみました。
W 0 ( x ) は
W 0 ( x ) = ln (e W 0 ( x ) )
、または
W 0 ( x ) = x / e W 0 ( x ) として求まります。
関数電卓用では
W 0 ( x ) を直接求めずに
e W 0 ( x )
から求めているのは、ニュートン・ラフソン法 (Newton-Raphson method) やハレー法 (Halley's method)
などの反復法 (iterative method) を使う場合に収束のし易さや安定度の点で有利だからです。
C の関数では、収束を決定するために占部の理論による収束判定を使用しています。
これは、補正値が変化しないか増加したときに計算限界に達したと見なして反復を終了するものです。
clambertw.c (C99) eW (RPN) for HP42S, Free42 or DM42
NAME
clambertw -- the principal branch of the Lambert W function.
LIBRARY
Math library (libm, -lm)
SYNOPSIS
#include <math.h>
#include <complex.h>
complex double
clambertw (complex double x);
RETURN VALUE
clambertw(x) returns the requested exponent of the principal
branch of the Lambert W function.
FORMULAS USED
Recurrence formula (Halley's method)
Initial approximation
eW -- calculate e W 0 (x )
Rev.1.4 (Oct. 6 2020)
(c) Takayuki HOSODA, Albert Chan
and Werner Huysegoms.
INPUT
X : x
OUTPUT
Z : x
Y : e W 0 ( x )
X : e W 0 ( x )
FORMULAS USED
Recurrence formula (Newton's method)
Initial approximation
/* clambertw : Lambert W0 function
Rev.1.52 (Dec. 4, 2020) (c) Takayuki HOSODA (aka Lyuka)
http://www.finetune.co.jp/~lyuka/technote/lambertw/
Acknowledgments: Thanks to Albert Chan for his informative suggestions.
*/
#include <math.h>
#include <complex.h>
#include <float.h>
#ifdef HAVE_NO_CLOG
double complex clog (double complex);
double complex clog (double complex x) {
return log (cabs (x)) + atan2 (cimag (x), creal (x)) * I;
}
#endif
double complex clambertw (double complex);
double complex clambertw (double complex x) {
double complex y, p, s, t;
double q, r, m;
r = 1 / M_E;
q = M_E - M_SQRT2 - 1;
if ((fabs (creal (x)) <= (DBL_MAX / 1024.0)) && (fabs (cimag (x)) <= (DBL_MAX / 1024.0))) {
m = 1.0;
s = x + r;
if (s == 0) return -1;
y = clog (r + csqrt ((2.0 * r) * s) + q * s); // approximation near x=-1/e
} else {
m = (1.0 / 1024.0);
x *= m; // scaling
s = x * m;
y = clog (r * m + csqrt (r * (s * 64.0)) + q * s);
y += (M_LN2 * 10.0);
}
r = DBL_MAX;
do {
q = r; p = y;
t = cexp (y) * m;
s = y * t - x;
u = (0.5 * y) / (y + 1.0) * s + t + x;
y -= s / u;// Halley's method
r = cabs (y - p); // correction radius
} while (r != 0 && q > r); // convergence check by Urabe's theorem
return p;
}
00 { 53-Byte Prgm }
01▶LBL "eW"
02 0.3
03 -1
04 E↑X
05 RCL+ ST Z
06 STO× ST Y
07 STO+ ST X
08 LASTX
09 STO+ ST Z
10 ×
11 SQRT
12 +
13 X<>Y
14 +/-
15 X<>Y # Initial value
16▶LBL 01
17 X=Y? # Convergence check
18 RTN
19 STO ST Y
20 LN
21 1
22 +
23 R↑
24 RCL+ ST Z
25 X<>Y
26 ÷ # Newton-Raphson method
27 -
28 STO× ST X
29 LASTX
30 STO+ ST Y
31 GTO 01
32 .END.
clambertw() の計算結果の例
clambertw(2.718281828459045 + i0) = 0.9999999999999999 + i0 (1.110223024625157e-16 + i0)
clambertw(1 - i2) = 0.8237712167092305 - i0.5329289867954415 (0 - i1.110223024625157e-16 )
clambertw(1 + i0) = 0.5671432904097838 + i0
clambertw(0 + i1) = 0.3746990207371175 + i0.5764127230314353 (-5.551115123125783e-17 + i0)
clambertw(0 + i0) = 0 + i0
clambertw(-0.36 + i0) = -0.8060843159708175 + i0 (-2.220446049250313e-16 + i0)
clambertw(-0.3678794411714423 + i0) = -1 + i0
clambertw(-0.37 + i0) = -0.996167692712445 + i0.1071826188083488 (3.33066907387547e-16 + i1.956768080901838e-15 )
clambertw(-1 + i0) = -0.3181315052047642 + i1.337235701430689 (1.110223024625157e-16 + i2.220446049250313e-16 )
clambertw(-1.78 + i0) = 0.08921804985620939 + i1.625623674427768 (-6.938893903907228e-17 + i0)
clambertw(-6 + i8) = 1.547930197079636 + i1.458601930168348
clambertw(-1e+40 + i1e+40) = 87.9726013585729 + i2.329718360883123
clambertw(1e+99 + i0) = 222.5507689557502 + i0
clambertw(1.797693134862316e+308 + i0) = 703.2270331047702 + i0
clambertw(-1.797693134862316e+308 + i0) = 703.2270231685106 + i3.137131632158036
clambertw(0 + i1.797693134862316e+308) = 703.2270306206868 + i1.568565805021136
clambertw(-1.797693134862316e+308 + i1.797693134862316e+308) = 703.5731090989279 + i2.352850357853284
clambertw(1.797693134862316e+308 + i1.797693134862316e+308) = 703.5731140622003 + i0.7842834489371958
何故 W ?
W 関数でちょっともやもやするのが、何故 W ?
というところなのですが、調べてみるとこういうことらしいです。
「Lambert は 1758 年に「Lambert の超越方程式」に関連して最初に考察しました。
これは w e w の特別な場合を論じた
Leonhard Euler による 1783 年の論文につながりました。
Lambert W の近代史は 1980年代に、
その関数のあるバージョンが Maple コンピュータ代数システムに組み入れられて
W という名前が与えられた時に始まります。
何故 W ?
それ以前のローレンス・リバモア国立研究所 の F. N. Fritsch、R. E. Shafer および W. P. Crowley による出版物では、定義式を w e w = x と書いていました。
Maple のルーチンを書いた、チューリッヒ工科大学の Gaston H. は文字 w を採用しましたが、Maple の表記規則により大文字にしなければなりませんでした。
…中略…
最初に W 関数の変種を Lambert の死から2年後の1779年に発表された論文で解説したのは、彼の著名な同僚である Leonhard Euler でした。
では、何故 Euler の W 関数と呼ばないの?
一つには Euler は Lambert のこの問題での初期の研究の功績を称えたからですが、
おそらくもっと大事な点として、Corless, Jeffrey と Knuth は
『さらに別の Eular のと付く関数名をつけるのは上手くない』
と指摘しています。」
Hayes, B. (2005). "Why W?", American Scientist. 93 (2): 104‐108. より抜粋して翻訳(細田)
参考文献
"Lambert W -function", Wolfram MathWorld
Hayes, B. (2005). "Why W ?", American Scientist. 93 (2): 104‐108.
"Lambert W function", Wikipedia
"The Lambert W function poster", Ontario Research Centre for Computer Algebra.
"Puiseux series", Wikipedia
"Newton's Method", Wolfram MathWorld
"Householder's Method", Wolfram MathWorld
"Urabe, Minoru. "Convergence of Numerical Iteration in Solution of Equations." J. Sci. Hiroshima Univ. Ser. A 19 (1956), no. 3, 479--489. doi:10.32917/hmj/1556071264.
HP Forums / Lambert W Function (hp-42s)
GSL - GNU Scientific Library
関連項目
http://www.finetune.jp/~lyuka/technote/lambertw/clambertw.html , "Lambert W function for C99"
VT は温度の関数なので、Q1, Q2 のジャンクション温度 T j が 0°C と 50°C のときについて
I e1 – R e 特性を fig.6 に示します。
fig.6 [I e1 – R e 特性]
tbl.2 [R e – I c1 代表値]
(T j = 25 °C, I e2 = 3.68 μA, h FE = 250)
R e [Ω] I c1 [nA]
1 3665
10 3660
100 3614
1k 3231
10k 1808
100k 506.5
1M 93.80
10M 14.21
100M 1.932
ところで fig.2 において、Q1 のエミッタ電位 V e 即ち
式 (6) における V be1 - V be2 は、
式 (6) よりエミッタ電流の比が 2 のときに、
V e = V T ln(2) になります。
これはエミッタの電位差が VT ln(2) 増える毎にエミッタ電流比が 2 倍になるとも言えます。
V T ln(2) は 300 K 辺りでは約 18 mV になります (fig.7)。
fig.7 [サーマルボルテージ]
fig.6 及び tbl.2 を見ると、
R e ≤ 10 Ω のときと
R e = 10 kΩ
のときで I e1 が約 2 倍異なっているのがわかります。
I e1 は後段の発振回路で周波数に変換されますが、
実はこの導通チェッカは常温で、
R e すなわち DUT がおよそ 10 kΩ の場合に
DUT が 10 Ω 以下の場合に比べて音程が約 1 オクターブ 低くなるように
なっています。
つまり、
R e I c1 ≈
10 kΩ × 1.808 μA ≈ 18 mV となるように、
Q2 の動作点を定めているのでした (fig.4)。
常温と温度範囲 : 「常温」は実は技術用語の一つで、日本産業規格では、JIS Z 8703-1983 試験場所の標準状態 の
標準状態の温度として定められています。
2. 標準状態
2.1 標準状態の温度 標準状態の温度は,試験の目的に応じて 20 °C,23 °C 又は 25 °C のいずれかとする。
2.2 標準状態の湿度 標準状態の湿度は,相対湿度 50 % 又は 65 % のいずれかとする。
2.3 標準状態の気圧 標準状態の気圧は,86 kPa 以上 106 kPa 以下とする。
⋮ (中略)
3. 標準状態の許容差
3.1 標準状態の温度の許容差
⋮ (中略)
備考 温度 15 級は標準状態の温度 20 °C に対してだけ用いる。
なお,5 〜 35 °C の温度範囲を常温という。
3.2 標準状態の湿度の許容差
⋮ (中略)
備考 湿度 20 級は標準状態の相対湿度 65 % に対してだけ用いる。
なお,45 〜 85 % の湿度範囲を常湿という。
対応する国際規格は、ISO 554-1976 "Standard atmospheres for conditioning and/or testing–Specifications"
及び、 IEC Publication IEC 60160:1963 "Standard atmospheric conditions for test purposes" です。
しかしながら「常温」は分野によって異なります。例えば、第十五改正日本薬局方 通則 9 では次のようになっています。
標準温度は 20 °C,常温は 15〜25 °C,室温は 1〜30 °C、微温は 30〜40 °C とする.
冷所は,別に規定するもののほか,1 〜 15 °C の場所とする.
食品衛生法の添加物の通則でも 15 〜 25 °C 、
日本産業規格 JIS K 0050:2005 化学分析方法通則でも 15 〜 25 °C となっていて、
メディカル・食品・化学分野などの生物(なまもの)を扱う分野と
熱くなりがちな物を扱う工業分野では、標準温度や常温の齟齬が生じやすいので注意が必要です。
試験場所の標準温度には、物理系では 300 K になる約 27 °C が人気ですし、ISO というかヨーロッパでは 23 °C が推奨されてたりしますが、
東南アジアなどの温暖な国では 23 °C は維持するには低すぎるとして、25 °C が好まれていたりします。
一方、電子機器の使用温度範囲などに関しても産業分野や自動車分野でも異なります。
電子情報技術産業協会規格 JEITA IT-1004 産業用情報処理・制御機器設置環境基準 では、
1.2 環境のクラス分けと機器の耐環境性のクラス分け
Class A : +15 °C 〜 +30 °C
Class B : +5 °C 〜 +40 °C
Class S1 : 0 °C 〜 +50 °C
Class S2 : -10 °C 〜 +60 °C
です。
電子部品では、部品メーカーが独自に決めた民生用、産業用、軍事用の温度範囲がありましたが、
近年は自動車用途に AEC (Automotive Electronics Council) Component Technical Committee
の温度条件区分も広く用いられるようになってきました。
使用温度範囲
0 °C 〜 +70 °C : 民生用, AEC-Q200 Grade 4 (Non-Automotive)
-25 °C 〜 +85 °C : 産業用
-40 °C 〜 +85 °C : AEC-Q100/200 Grade 3, AEC-Q101 (車室用, LED)
-40 °C 〜 +105 °C : AEC-Q100/200 Grade 2, AEC-Q101 (車室の熱い箇所用, LED 除外)
-40 °C 〜 +125 °C : AEC-Q100/Q200 Grade 1 (殆どのエンジンルーム内用途)
-40 °C 〜 +150 °C : AEC-Q100 Grade 0
-50 °C 〜 +150 °C : AEC-Q200 Grade 0 (全自動車用)
-55 °C 〜 +150 °C : 軍事用
例えば、X8R 特性の MLCC は AEC-Q200 Grade 0 の要求に応えるために開発されたものです。
5. 電流制御発振器 (Current controlled oscillator : ICO)
fig.8 は この導通チェッカで使っている電流制御発振器(以下 ICO と略す)とその周辺のシミュレーション用回路図です。
この ICO は電流積分キャパシタ C1 の充放電を
ヒステリシス電圧比較器(hysteresis voltage comparator) として使われている
シュミット・トリガ (Schmitt trigger) 入力の CMOS インバータ U1:HC14 で切り替えることによって弛張発振回路を形成しています。
HC14 は電源電圧が 2〜6 V で動作する HCMOS ("high-speed" CMOS) ロジック 74HC シリーズの IC 74HC14 の SPICE モデルです。
fig.8 [電流制御発振器シミュレーション回路]
fig.9 は U1:HC14 (NXP Semiconductor, 74HC14) のシュミット・トリガ入力部の SPICE モデルを元にした
シュミット・トリガ入力回路です。
図中の M1, M5 は保護ダイオードで、過大入力を電源にバイパスする役目があります。
R1 はポリシリコンを用いた抵抗で、過大入力時に M1, M5 に流れる電流を制限します。
HCMOS ロジックの Si ゲートプロセスは微細なパターンで構成されているため、
入力端子から入るサージ (surge, 瞬間的な過大入力) からゲートを保護する入力保護回路が必要となります。
fig.9 [シュミット・トリガ入力]
出力 V o の電圧が V dd に近い High レベルの間は、
M8 が導通状態でコンダクタンスが大きくなっているため M7のソース電位 V n が上がり、
すなわち入力 V g 箇所の
閾値電圧 (threshold voltage) が高くなっています。
このときの閾値を positive-going threshold あるいは単に positive threshold と呼び
V T+ あるいは V P と表記します。
このときの M4 はカットオフ状態でコンダクタンスが小さくなっています。
V g の電圧が上昇して V T+ を超えると V o
が反転して V ss に近い Lowレベルになり、
今度は M8 がカットオフ状態になり、M4 が導通状態となって、閾値が低くなっています。
このときの閾値を negative-going threshold あるいは単に negative threshold と呼び
V T- あるいは V N と表記します。
fig.9 の回路に三角波を入力したときのシミュレーションの各部の電圧波形を fig.10 に示します。
fig.10 [シュミット・トリガ動作波形]
この動作の様子を横軸に入力電圧 Vin、縦軸に出力電圧 Vo をとってプロットした図を fig.11 に示します。
入力の閾値が過去の出力状態によって変わることから磁性体のヒステリシス (hysteresis) に倣って
ヒステリシスと呼び、この入出力特性をもつ回路をシュミット・トリガ (Schmitt trigger) と呼びます。
このプロットをヒステリシス曲線と呼びます。fig.1 の U1A や fig.8 中の U1 のシンボルのように、
シュミット・トリガはバッファやインバータのシンボルの中に埋め込まれたヒステリシス曲線で示されています。
前述の V T+ - V T- をヒステリシス電圧と呼び VH と表記します。
fig.11 [ヒステリシス特性]
74HC14 のような CMOS ロジック IC のヒステリシスの閾値電圧 V T+ , V T- は電圧や温度依存性を持ちます。
また実際の素子ではメーカの違いのみならずロットやプロセスのばらつきによっても変化しますので、電圧比較器のような精度はありません。
CMOS ロジック IC のシュミット・トリガは低速なランプ (ramp) 信号を2値のデジタル信号に変換するのが主目的ですが、適度に安定で適度な幅の
ヒステリシス電圧と、その極めて小さな入力バイアス電流は、今回のような低電流ハイインピーダンスの ICO を構成するのに適しています。
fig.9 の電源電圧 Vdd = 3.0 V でのシミュレーションでは常温で、
V T+ ≈ 1.61 V,
V T- ≈ 1.09 V,
V T+ - V T- ≈ 520 mV となっています。
ヒステリシス :
ある系の状態が過去の履歴に依存することをヒステリシス (hysteresis) と呼びます。
用語 "hysteresis" は、古代ギリシャ語の「不足」または「遅引」を意味する ὑστέρησιςから派生し、
1890年頃に、ジェームズ・アルフレッド・ユーイング卿(Sir James Alfred Ewing) によって金属の磁性の挙動を述べるために作り出されました。
磁性体のヒステリシス、即ち磁化の外部磁界の履歴への依存はハードディスクドライブ等の記憶の基本となっています。
http://www.irm.umn.edu/quarterly/irmq22-4.pdf より転載
シュミット・トリガ :
電子工学において、シュミット・トリガ (Schmitt trigger) は正帰還を持つ比較器でアナログ信号をデジタル信号に変換する能動回路です。
シュミット・トリガはアメリカの科学者オットー・シュミット (Otto H Schmitt) によって氏が学士の間の 1934年に発明され、
後に 1937年の学位論文中で "Thermionic Trigger" と記述されていたものです。
それはシュミット氏のイカの神経系における神経インパルスの伝達に関する研究の直接の成果でした。
ヒステリシスの閾値 :
英語では positive-going (negative-going) threshold と呼ばれるヒステリシスによって変わる閾値ですが、
日本語の訳語があまり定まっておらず、
「しきい値電圧 "H"("L")レベル」、
「ハイ(ロー)レベルしきい値電圧」、
「立ち上(下)がり入力スレッショルド電圧」、
「正(負)方向入力スレッシュホールド電圧」、
「入力が L から H(H から L)になるときに発生するヒステリシスの上(下)端電圧」
など様々です。筆者が訳すなら
「上り(下り)閾値」
としたいところです。
6. 電流積分
積分キャパシタ
微小電流の積分のために使われるキャパシタには、漏れ電流が極めて少なくて誘電吸収が少ないものが必要です。
10 nF 程度までの積分用キャパシタには低誘電率系 (TiO2 系等, EIA Class I C0G 特性)
のセラミックキャパシタを用います。低誘電率系セラミックキャパシタの絶縁抵抗は 500 ΩF 以上か 10 TΩ のオーダーであって、誘電吸収も少ないため積分キャパシタに適しています。
fig.1 中 C1 に使用している 1.2 nF, 50V, C0G 特性のキャパシタは、絶縁抵抗が 10 TΩ以上で誘電吸収がほとんど無くエージングによる容量の減少もありません。
C1 を実装している PCB は FR4 ガラスエポキシ基板で、
その吸湿時の表面抵抗 (JIS C 6481, C-96/40/90) は 100 TΩ 程度ですので、
C1 の絶縁抵抗は C1 周囲の表面抵抗と同程度に十分高い絶縁抵抗であると言えます。
fig.12 [低誘電率系 MLCC の直流電圧印加特性例 (C0G 特性)]
Murata, GRM1885C1H122JA01 の SimSurfing より転載
誘電吸収と積分用キャパシタ
誘電吸収 (dielectric absorption) とはキャパシタ内部で長い時間が必要な分極 (polarization) が
徐々に発生し、そこに電荷が移動するという減少です。
モデル的には下図の Cda と Rda で表されます。
誘電吸収の影響は特に、電圧をキャパシタによって保持する用途では電圧の減少や、
キャパシタによって電流の積分を行う用途ではリセット後の電圧の発生として現れて問題になります。
[キャパシタの簡易等価回路]
誘電吸収の試験は JIS C 5101-1:2019 (IEC 60384-1:2016) に定められていて、
概略的には充電電流を 50 mA 以下として、定格直流電圧で 60 分 ±1 分間充電し、
5 Ω ±5 % の抵抗器で 10 秒間の放電後、抵抗器を切り離して、
その後の 15 分間に発生する最大電圧の定格電圧に対する比を測定します。
積分用キャパシタには誘電吸収の少ない低誘電率系の C0G 特性の MLCC が広く用いられています。
過去にはポリプロピレンフィルムキャパシタ、あるいはスチロールキャパシタが用いられていましたが、
MLCC に比べてサイズが大きく高価で高温にも弱く温度特性も悪くて温度のヒステリシスもあるため、
表面実装部品全盛の現在では、小信号の積分用途にはあまり用いられなくなっています。
誘電吸収的に最も優れているものはテフロン (PTFE) ですが、その材質的性質上、
電極を蒸着で作るのが困難なため、高圧用途などの特殊用途以外ではほとんど作られていません。
[キャパシタの種類と誘電吸収特性]
IEC 60384-1
Paul Horowitz, Winfield Hill, "The Art of Electronics 3rd Edition", Cambridge University Press, 2015 p.301 より転載
高性能な積分用キャパシタが必要に思える代表格は、6–1/2 桁のベンチトップ型のマルチメーター等ですが、
hp / Agilent (現 Keysight) の 34401A の昔から積分用キャパシタには C0G 特性の低誘電率系 MLCC が用いられています。
[hp 34401A]
但し、同じ低誘電率系の C0G 特性をうたっている MLCC でも、メーカーによって誘電吸収特性は異なることがあるため、事前の確認が必要です。
充電時
fig.8 において、V out が Lowレベル
(V SS ≤ V out ≤ V OL )
のときは、
JFET J1 のゲートのゲート漏れ電流と
HCMOS IC U1 の入力へのバイアス電流も Q1 のコレクタ電流 I c に比べて
十分小さいものとして無視すると、電流積分キャパシタ
C1 の充電電流 I in は
I c から
D1 のリーク電流 I a と
D2 のリーク電流 I k の差を減じたもの、
I in = I c - (I a - I k )
となります。このとき C1 の電圧 V in は、jω = s とすると、
… (9)
u (t ) : 単位ステップ関数
となります。
充電は V in が V T+ から V T- になるまでの続くので、
充電継続時間、即ち V out が "L" である時間 T PWL は、
… (10)
と表され、V T+ = 1.61 V, V T- = 1.09 V,
C 1 = 1.2 nF,
I c = 3.68 μA (@Rx:DUT = 1mΩ),
I a = 25.7 nA,
I k = 7.9 nA の場合、
T PWL = ≈
(1.61 V - 1.09 V) × 1.2 nF / (3.68 μA - (25.7 nA - 7.9 nA)) ≈ 170 μs
となります。
放電時
fig.8 において、V out が highレベル (V OH ≤ V out ≤ V dd )
のときは JFET J1 のゲートが順方向にバイアスされて導通し、電流積分キャパシタ C1 を放電します。
HCMOS IC U1 の入力からのバイアス電流が D1 のリーク電流 I a に比べて
十分小さいものとして無視すると、
電流積分キャパシタ C1 の放電電流 I ind は JFET J1 の順方向ゲート電流 I gf から
Q1 のコレクタ電流 I c と、D1 のリーク電流 I a と D2 のリーク電流 I k の差を減じたものとなります。
J1 の順方向ゲート電圧 を V gf として、fig.17 より使用電流範囲でほぼ一定で
V gf ≈ V f = 410 mV
とみなすと、ヘルムホルツ–テブナンの定理 (Helmholtz–Thévenin theorem) により電流源と抵抗から
等価電圧源 V d に変換して fig.14 のような等価回路で表されます。
fig.13 [JFET MMBFJ201 ゲート順方向特性(シミュレーション)]
電流の記号は I
電流の記号は I であり、これはフランス語の "Intensité du courant"(流れの強度, current intensity)に由来します。
電流の強度はしばしば単に電流(current)と呼ばれます。
I のシンボルは後に電流の単位の由来となるアンドレ・マリー・アンペールによって、
アンペールの力の法則を公式化するのに使用されました。
電子工学で使われる記号
電子工学の分野では慣用的に科学分野とは違った記号が使われるものがあります。
科学分野での虚数単位 i は電子工学では電流を表す記号として使われるため、電子工学分野では虚数単位に j を用います。
科学分野での素電荷 e は電子工学では主にネイピア数を表す記号として使われるため、電子工学分野では素電荷に q を用います。
因みに数学分野ではネイピア数を伝統的に e と斜体で表しますが、
ISO 80000-2 :2009 や JIS Z 8201:1981
ではネイピア数 e や虚数単位 i, 円周率 π などの定数は立体で表記することが定めれています。
また、しっかりと定義された (well-defined) 演算子 div や δx の δ や
df / dx の d も立体で表記されます。
≈ と ≃ と ∼
これらの記号も、ISO 80000-2:2009 に記載されています。
a = b は a と b は等しい (is equal to) を意味します。
a ≈ b は a は b と近似的に等しい (approximately equal to) を意味します。
近似においてどのくらい違いを容認するかは文脈により、等しい場合も除外されません。
日本で「ほぼ等しい」という意味で使われる ≒ 記号は国際的には通用しないため、電子工学の分野では ≈ の使用が推奨されます。
例
-67.2 × ln (0.775 / 1.295) ≈ 34.5
a ≃ b は a は漸近的に b に等しいことを意味します。
例
a ∼ b は a は b に比例することを意味しますが、同値関係 (equivalence relation) を表すのにも用いられます。
a ∼ b は、特に観測天文学分野では、a と b は同じ桁であるとか大まかに同じという意味でも用いられます。
例
T ∼ 105 K
π 2 ∼ 10
a ∝ b は a は b に比例することを意味します。
a ≔ b は a は b と等しいと定義されている (is by definition equal to) ことを意味します。
例
p ≔ m v
REFERENCE:ISO 80000-2:2009 自然科学及び技術で用いられる数学符号および記号 (追記:ISO 80000-2:2019 が刊行済み)
fig.14 [放電時の等価回路]
V f ≈ 410 mV
V d = ( I c - I a + I k ) R 4 + V f
≈ ( 3.67 μA - 26 nA + 7.9 nA) × 56 kΩ + 410 mV
≈ 615 mV
fig.14 の等価回路のときの V in は次の伝達関数により、
… (11)
となります。
放電は V in が V T- から V T+ になるまでの続くので、
放電継続時間、即ち V out が "H" である時間 T PWH は、
… (12)
なので、
T PWH ≈ -56 kΩ × 1.2 nF × ln((3 V - 0.615 V - 1.61 V) / (3 V - 0.615 V - 1.09 V)) ≈ 34.5 μs
となります。
発振周波数
発振周波数 f osc = 1 / (T PWH + T PWL ) なので、
前述の充放電の条件の場合、
fosc ≈ 1 / (311μs + 63.3μs) ≈ 2.67 kHz
となります。
T pwl は I in の関数なので、
発振周波数 f osc は電流 I in により制御されることになり、
電流制御発振器の出来上がりとなります。
I in = I c - I a ,
I c = α F I e で、
I e は fig.6 のように R e の関数で、これは fig.8 における Rx:DUT に相当するため、
DUTの抵抗値あるいは DUTに流れる電流により発振周波数が変化することがわかります。
発振周波数はまた、もちろん積分キャパシタの容量の関数で、容量に反比例します。
これまでの説明では C1 の容量を 1.2 nF としてきましたが、音の高さは人の好みもありますので、
C1 と 調整用の C2 を合わせた容量が概ね 1.0nF 〜 2.7nF の範囲で変更して好みの音程に合わせて差し支えありません。
導通チェッカとしての用途では発振周波数の精度は問われないのであまり問題にはなりませんが、
電源電圧 V dd や温度が変わると
VH , V T+ , V T-
も変わるため発振周波数も変化します。
温度が変わると J1 の V f も変わるのでこれもまた発振周波数の変動要因になります。
7. 抵抗以外の DUT
DUT が短絡の場合
fig.15 は fig.8 の電流制御発振器の Rx:DUT = 1m Ω のときの弛張発振のシミュレーション波形です。
T PWL は t 1 - t 0 に、T PWH
は t 2 - t 1 に相当します。
fig.15 [弛張発振シミュレーション]
概略計算の T PWL ≈ 170 μs, T PWH ≈ 34.5 μs に対して、
シミュレーションではそれぞれ、約 168 μs, 約 34.6 μs となっておよそ計算通りの結果となっています。
若干の違いは、V T+ , V T- , I c , I a
のずれや、V f の近似などに起因します。
fig.15中、Vk にスパイク電圧が発生して I_c1 にスパイク電流が流れているのが見て取れますが、
これは、一つには、fig.8 中 J1 の接合容量 C j と寄生容量 C p
に充電された電荷が R4 を介して C1 に再分配されることにより生じています。
もうひとつは、J1 が逆バイアスになった後も、
接合中の少数キャリアが消失するまでの逆回復時間 (reverse recovery time) t rr の間は逆方向電流が流れるからです。
C j ≪ C 1 及び、
t rr ≪ T PWH の場合には通常無視できますが、
これらもまた概略計算に含まれていないためシミレーションとの違いの原因の一つとなります。
コンデンサとキャパシタ
キャパシタを表すコンデンサという用語があります。
これはボルタ (Alessandro Giuseppe Antonio Anastasio Volta, 1745-1827) の
電荷を集めて貯めるための装置 "Electrophorus (Greek ήλεκτρον ('elektron') + φέρω) ('phero'), meaning 'electricity bearer'" について提唱した "Condensatore dell' elettricita" というイタリア語に由来します。
[1800 年来の電気盆 (Electrophorus from the 1800s)]
Robert Hare (1840) "A Compendium of the Course of Chemical Instruction in the Medical Department of the University of Pennsylvania, 4th Ed., Part 1", J.G. Auner, Philadelphia, p.49 on Google Books より転載
ボルタは、
「この場合、電気盆は電位計あるいは微小電位計という名前の方がふさわしいかもしれないが、
私はどちらかというと、この論文で扱う現象の理由と原因を一度に表現できる、
電気のコンデンサと呼んでいました。」
と書いています。ボルタの論文の該当部分を下に紹介します。
"Alessandro Volta,
Del modo di render sensibilissima la piu debole elettricita sia naturale, sia artificiale
Philosophical Transactions of the Royal Society of London, Volume 72, pp. 237-283 (1782)."
p.239 より転載
(English translation)
3. The electrophorus in this case might perhaps better
deserve the name of electrometer , or micro-electrometer,
but I had rather call it a condenser of electricity, for the
sake of using a word which expresses at once the reason
and cause of the phenomena to be treated of in this paper,
as will be made evident in the second part.
凝集器や集光器など他にも「コンデンサ」と呼ばれるものがあるため、
近年、電気のキャパシタは通常「キャパシタ」と呼ぶようになっています。
日本では、歴史的にそう呼ばれてきていて、
また用語や文脈的に電力用途であったり電気部品であることが明示的な
「進相コンデンサ」や「電解コンデンサ」等においては「〜コンデンサ」と呼ばれています。
DUT がキャパシタの場合
DUT がキャパシタ C e の場合、I e1 が C e
によって積分された電圧 V e1 が
(5)式の V be2 - V be1 になるので、時間
t = t 0 のとき V e1 = 0 として、
… (13)
となって、I e1 は容量 C e に比例し、時間 t に反比例して減少することになります。
また V e1 は容量によらずサーマル・ボルテージ VT に比例、即ち絶対温度に比例し、
時間に対して対数的に増加していきます。
fig.16 [DUT がキャパシタの場合の発振波形シミュレーション]
fig.16 を見ると、シミュレーションと計算式のグラフが一致しているのが見て取れます。
I e1 が時間に反比例して減少ということは、後段の ICO を経て音に変換されたときには、
およそ倍の時間毎にオクターブ低い音に変わるということです。
その変わる早さは C e が大きいほどゆっくりになります。
fig.17 [DUT がキャパシタの場合の測定電圧のミュレーション]
また、fig.17 の V DUT のグラフのように、キャパシタの電圧 V e1
は 25 °C において 10 秒後で約 188 mV, 1分後でも約 233mV にしかなりません。
このことは、DUT がタンタル電解コンデンサのような逆電圧に弱い有極性キャパシタにおいても、
DUT にダメージを与えること無く使用できることを意味します。
有極性電解キャパシタ(電解コンデンサ)の許容逆電圧 :
アルミ電解キャパシタでは通常、陰極のアルミ箔の自然な酸化層により約 1 Vの逆電圧に耐えることができます。
Nichikon の技術資料 より転載
導電性高分子キャパシタも有極性部品で継続的に逆電圧にならないように細心の注意が必要です。
しかしながら、
AVX の技術資料 によると
ピーク逆電圧が以下を決して越えないことを条件として僅かな逆電圧スパイクを許容できるとなっています。
25 °C において定格電圧の 15 %
85 °C において定格電圧の 5 %
125 °C において定格電圧の 3 %
タンタルキャパシタおよびニオブキャパシタは基本的に逆電圧を印加してはいけませんが、逆電圧の常識的なガイドラインは、
AVX の技術資料 によると
25 °C において定格電圧の 10 %から最大 1.0 V
85 °C において定格電圧の 3 %から最大 0.5 V
125 °C において定格電圧の 1 %から最大 0.1 V
です。このガイドラインは短時間の逸脱に限って適用され、恒久的に使用できる逆電圧として決めるために使用してはなりません。
Vishay Polytech の技術資料 によると、
AVX と同等のガイドラインで、
「240 時間を越えてならず、電源のインピーダンスには 33 Ω 以上に管理されてなければならない」
となっています。
DUT がダイオードの順方向の場合
次の Shockley のダイオード方程式 (14) によれば、
ダイオードの順方向電圧 V f と順方向電流 I f は
… (14)
I f : 順方向電流
I s : 逆バイアス飽和電流
V f : 順方向電圧
VT : サーマルボルテージ
n : 理想係数(Ideality Factor)
と表されます。DUT がダイオードの順方向の場合、カレントミラー回路の (5) 式の
V be2 - V be1 = V f ,
I e1 = I f とし、
ダイオードの式の両辺の対数をとって整理すると、
… (15)
となって、順方向電流はカレントミラーの式とダイオードの式の交点として求まり、
… (16)
の関係となって VT によらないのがわかります。
いくつかのポピュラーな Si-ショットキーバリアダイオードと Si-接合ダイオードについて I e2 = 3.68μA のときの I f の例を次に示します。
fig.18 [DUT がダイオードの順方向の場合のエミッタ電流]
Model I s N I f
1N5819HW 1.91e-4 1.7 3.566e-6
RB400VA-50 3.4265e-7 1.0902 9.019e-7
HSMS-8101 4.6e-8 1.09 3.511e-7
MMBD301 2.947e-8 1.366 2.102e-7
MMBD770 9e-9 1.3714 1.085e-7
1SS193 2.807e-9 1.8469 3.315e-8
I s , N は各社の SPICE モデルより抜粋したものです。I f は計算値で実測値ではありません。
このように、ダイオードの種類によって流れる電流が大きく異なります。
シリコンダイオードの N はほとんどの場合 1 から 2 の間ですので、
I f は主に逆バイアス飽和電流 I s に依存します。
導通チェッカとしては I s が大きいものは I f が大きくなるため高い音に聞こえ、
反対に I s が小さいものの音は低く、
または間欠的なパルス音となるため、電源整流用、検波用、スイッチング用と言ったおよその区別がつくようになっています。
DUT が電圧源の場合
F0114A は、電源が切られている回路に対して使うことを目的とした
インサーキット導通チェッカですので電圧を印加するのは基本的には良くありませんが、
許容入力電圧範囲内の ± 300mV 程度の微小な電圧に対しては使用可能です。
fig.1 において、入力端子 T+ と T- 間の入力電圧 V DUT
が微小な正の電圧の場合、
(5)式より、電圧とサーマルボルテージの比の指数に反比例した入力電流 I DUT が流れ、
V DUT が約 18 mV増える毎に音程としては約1オクターブ下がることになります。
一方、V DUT が微小な負の電圧になった場合には、
R4–Q2 の C1 の放電能力 約 42 μA を超える電圧、式(5) より、
VT ln (3.7 μA / 42 μA) ≈ -63 mV を超える負電圧に
なった時点で ICO は発振を停止し、LED D2 が連続点灯状態となります。
その電圧を越えて負の電圧となった場合、U1A の内部保護ダイオードが導通しない
-0.3 V程度の電圧までは R1 と R4 経由で -60 μA 程度の
I DUT が流れることになります。
このころから Q1B はカットオフしていて、Q1A のベースには固定バイアス的にベース電流
I b1 = (V cc - V DUT - V be1 )
/ R 1 の電流が流れるようになります。例えば、
V DUT が -0.3 V、V be1 が25 °C 近辺かつ動作電流付近で約 0.57V とすると、
I b1 ≈ (3.0 - (-0.3) - 0.57) V / 680 kΩ ≈ 4 μA
程度になっています。
V DUT が -1.0 V程度までは、Q1A のコレクタ–エミッタ間電圧
V ce
が低く Q1A は飽和領域にいるため、V DUT の低下に伴って
V ce が増大して I DUT は増加していきます。
このとき、U1A の内部の保護ダイオード(fig.9における M5)は導通し始めています。
V DUT が -1.0 Vを超えたあたりで Q1A の V ce
が大きくなって Q1A は能動領域に入り、
I c1 = h FE (V cc - V DUT - V be1 )
と言えるようになります。
例えば、V DUT が -6 V、V cc が最大 3.3 V、
h FE が最大 450、V be1 が25 °C 近辺かつ動作電流付近で約 0.68 V、
R1 : 680 kΩ の誤差が -5 % とすると、
I c1 ≤ 450 × (3.3 - (-6) - 0.68) V / (0.95 × 680 kΩ) ≈ 6 mA
の電流が U1A の内部の入力保護ダイオードに流れることになります。
U1A : 74HC14 の入力電流の絶対最大定格は ±20 mA ですので、
入力電圧が -6.0 Vで電源電圧が 3.3 V の場合でも絶対最大定格範囲内です。
保護回路を作動させた状態で使いつづけるのはもちろん望ましくありませんが、
メーカーの資料によれば、74HC シリーズの入力保護ダイオードは十分 20 mA に
耐える作りになっているとのことなので、絶対最大定格の 1/3 以下の 6 mA であれば十分許容範囲といえます。
外付け入力保護ダイオード D3 が使用されている場合には U1A の内部の入力保護素子に流れる電流は数 mA を超えることはありません。
fig.19 [入力電圧–入力電流の実測値 (D3 が未実装の場合)]
※但し、電流の向きは T+ から T- へ流れる向きを正とする
-6 Vを越えて入力電圧が下がると、Q1B のベース・エミッタ間が降伏する可能性があります。
また、+6 Vを越えて入力電圧が上がると Q1A のベース・エミッタ間が降伏する可能性があります。
ベース・エミッタ間が降伏した場合、電流やエネルギーにもよりますが、
Q1のトランジスタの性能が劣化したり、あるいは恒久的な破壊に繋がります。
DUT が開放(オープン)の場合
fig.1 において Q1A のエミッタ電流が流れないので、ICO が動作を停止するのが期待されますが、
Q1A の I CBO (コレクタ遮断電流) や、Q2 のゲート漏れ電流、および U1A の入力漏れ電流によって C1 が充電されると、
長い時間で間欠的に動作することになります。
fig.1 では、この漏れ電流を補正するために、それらに比べて
逆方向漏れ電流の多い素子 D1 を設けて、充電電流よりも放電電流の方が多くなるようにして、
間欠動作を起こさないようにしてあります。
このことは、導通を検知できる最小コンダクタンス、あるいは最大抵抗値を制限することになるので、
必要十分にして最小限の漏れ電流の素子を選択します。
U1A の外付け入力保護ダイオード D3 が使用されている場合には、D1 はその漏れ電流も含んで補正できる素子とします。
DUT が開放の場合でも T+ 端子の入力インピーダンスが高いため、
テストリードが接続されている場合には商用電源等からの静電結合によって T+ 端子に交流電圧が誘起され、
それが入力の正負の電圧特性の違いによって Q1 で検波されて ICO が動作する場合があります。
放送や無線機器からの電波による妨害を受けた場合にも、同様のことが起こり得ます。
これらの場合でも、U1A の入力は R12 と D1 および D3 によるクランプ回路で保護されていますし、
VHF 以上の周波数の電波に対しては、fig.1 中 R3, R12 及び C1 によって構成される低域通過フィルタによっても
U1A の入力は保護されています。
安全上の理由により F0114A を商用電源やその漏れ電流の検知等に使用してはなりません。
8. 入力保護
f0114A のプリント配線基板(以下、PCBと呼ぶ)や端子は筐体から絶縁されています。
外部につながるところはケースのサイドパネルに取り付けられている2つのターミナルで
fig.1 における T+ と T- に接続されます。
PCB の外周と未使用部分の全面は回路の電位の基準であるグランド(以下 GNDと呼ぶ)になっていて、
T- は GNDに接続されています。
入力保護として一義的には T+ から直接入ってくる電気的ノイズに配慮すれば良いことになります。
ターミナルには一般的にはテスタープローブが接続されて人が手に持って使うことになります。
もちろん導通チェッカを使うような状況では静電気が起こりにくい環境であることが推奨されますが、
このような機器は特に ESD (Electric Static Discharge, 静電気の放電) に対する配慮が必要です。
ESD のエネルギーによる直接的な電子素子の故障や、ESD が引き金になって
CMOS IC などに破局的なラッチアップ (latchup) が発生する恐れがあるからです。
ラッチアップ (latchup)
74HC シリーズのような CMOS IC は CMOS の本質的な構造により、ラッチアップは避け難い現象です。
CMOS では PMOS と NMOS が1つのチップ上にあるため、NPN と PNP のトランジスタが出来てしまいます。
この2つのトランジスタは合わせて PNPN 構造になることにより寄生サイリスタを構成します。
サイリスタは PNPN 構造を持つスイッチング素子の一つで、一度ゲートがトリガーされてターンオンすると、
電圧を取り除かない限り電流が流れ続ける素子です。
IC の動作中に入力や出力に ESD などにより過度な電圧が加わると、この寄生サイリスタがターンオンして異常な電流が
電源端子間に流れます。この寄生サイリスタがターンオンする現象をラッチアップと呼びます。
電源が切られると通常状態に戻りますが、内部のアルミニウム配線が溶断して IC が破壊されていることがあります。
[寄生サイリスタ]
Renusas, 「高速CMOSロジック HD74HCシリーズアプリケーションノート」より転載
実際の CMOS IC 内部の入出力には保護素子が設けられ、
また構造的にもラッチアップを起こしにくいように設計・製造されています。
IC では、ESD 関連の規格のうち、JEDEC JESD22-A114F (Human Body Model) 等が参照されていて、
74HC シリーズの HCMOS IC では、入力電流が ± 20 mA まではラッチアップを発生しないように設計製造されています。
HCMOS の入力は標準的に 100 mA〜120 mA (5s オン, 15s オフ) の連続電流に、
あるいはデューティ 0.001 の 300 mA の 1 μA のパルスに耐えるように決められています。
入力はまた、300 V に充電された 200 pF のキャパシタからの1度の放電にも耐えます。
HCMOS の出力は 200 mA〜300 mA (5s オン, 15s オフ) の連続電流に、あるいは
デューティ 0.001 の 400 mA の 1 μA のパルスに耐えます。
もし、ESD 等による過大入力が想定される場合には外部にも保護素子を追加します。
保護素子
F0114A の入力は今までに述べたように様々な DUTに対して非常に高いセンシティビティを特徴としていて、
この特徴は言い換えれば、入力にサージアブソーバ (surge absorber) やツェナーダイオードのような保護素子を設けると、
それ自体が検知対象となるということで、入力端子にシャント型の保護素子を設けることが困難です。
T+ 端子 に ESD によるエネルギースパイク (energy spike) が発生した場合には、Q1A と Q1B のベース・エミッタ間の
ブレークダウンがツェナーダイオードのように働いて、Q1A のコレクタ側への印加電圧をシャントし、
過大な電圧が U1A の入力へ伝わるの制限します。そのエネルギーの大半はブレークダウン電圧 (breakdown voltage) とシャント電流により
熱として消費されます。もちろん Q1 はサージアブソーバとして
作られているわけではありませんので、ブレークダウンにより h FE の減少や
リーク電流の増加を引き起こすことがありますし、エネルギーによっては恒久故障になることもあります。
Q1 に加わるスパイクが急峻すぎるものになるのを抑えるトランジェント・サプレッサ (transient suppressor) として
低直流抵抗のチップフェライト R3 が Q1A のエミッタに直列に挿入されています。R2 は R3 の直流抵抗に
よる影響を補正するために用意されている抵抗ですが、R3 の直流抵抗は 30 mΩ 程度でほぼ無視できる
ため、R2 には直流抵抗が 20 mΩ 〜 50 mΩ のジャンパ抵抗を用いてます。
ESD (Electric Static Discharge, 静電気の放電)
ESD は、片方の表面上の静電荷の蓄積が、
誘電体を介して反対の電荷を持つもう片方の表面にアーク放電するときに発生します。
電荷の蓄積を平行板キャパシタとして考えれば、
電荷を保存したままその誘電体の厚みがn倍に拡がると電圧はn倍になり、
蓄積されたエネルギーもn倍に大きくなります。
平行板キャパシタの電圧と容量
C : 静電容量
V : 電圧
ε : 誘電率
d : 電極間の距離
Ec : キャパシタに蓄えられるエネルギー
例えば、0.01 mm の距離間である電圧に帯電していたとして、
電荷を保存したまま距離が 100 mm に離れたとすると電圧もエネルギーも
10 000 倍も大きくきくなるわけで、この大きなエネルギーと電圧が ESD による故障の原因の一つです。
ESD 関連規格
ESD 関連規格には次のようなものがあります。
IEC 61000-4-2 (ESD) (150 pF and 330 Ω)
AEC-Q101-001 (ESD)
AEC Q200-002 (ESD) (150 pF and 2000 Ω)
ISO 10605 (ESD) (150 pF and 2 kΩ; 330 pF and 2000 Ω; 330 pF and 330 Ω)
JEDEC JESD22-A114F Human body model (HBM) (100 pF, 1500 Ω)
MIL-STD-883B, Method 3015 (ESD) (100 pF, 1500 Ω)
ESD 試験の一例を上げると、
IEC 61000-4-2 では次のような等価回路の ESD 発生器を使って DUT に対して放電を起こして試験します。
[ESD 発生器概略]
[理想接触放電電流波形 (4 kV)]
試験電圧はクラス毎に決められていて、IEC 61000-4-2 では次のようになっています。
[Test levels]
Contact discharge Air discharge
Level Test Voltege kV Level Test voltage kV
1 2 1 2
2 4 2 4
3 6 3 6
4 8 4 8
X Special X Special
"X" can be any level, above, below or in between the others.
The level shall be specified in the
dedicated equipment specification.
if higher voltage than those shown are specified,
special test
equipment may be needed.
ESD 試験除外箇所 : (IEC 61000-4-2)
8.3.2 Direct application of discharges to the EUT
The following exclusions apply (i.e. discharges
are not applied to those items):
e)those contacts of connectors or other accessible parts that are ESD sensitive because of
functional reasons and are provided with an ESD warning label, for example, r.f. inputs
from measurement, receiving or other communication functions.
ESD 対策
製品レベルの ESD 対策では、ESD 関連の規格のうち、
IEC-61000-4-2 の HBM (Human Body Model) の Test level 2 Contact discharge 4 kV
の試験に耐えることを念頭に設計する場合が多いです。
試験の詳細は規格を参照することとして、その概略は ESD 発生器
(トリガーがあるので、ESD gun と呼ばれることも多い)の
放電チップから筐体の金属部に接触放電をさせたりするものです。
ESD 対策はつまるところ電荷の再分配の話で、ESD のエネルギーで素子が破壊されたり、
ラッチアップのトリガーとならないようにすれば良いことになります。
その要点は、
ESD のエネルギーを出来るだけ筐体内部に入れない → 入出力箇所で対策、帯域の制限、静電シールド等
アーク放電が起こりうる場合には放電箇所の適正化 → 意図したスパークギャップを設ける
ESD のスパイクの微分値を下げる → 損失のある直列のインダクタ(チップフェライト等)または直列の抵抗分および並列の容量分を設ける
ESD のスパイクの尖頭値を下げる → 直列の抵抗分および並列の電圧制限素子(ツェナーダイオードやバリスタ等)や並列の容量分を設ける
ESD のエネルギーを耐力のある箇所で消費する → 並列の抵抗分や直列の抵抗分および並列の電圧制限素子(ツェナーダイオードやバリスタ)を設ける
入出力の配線のインダクタンスを直列の抵抗分でダンピングする → チップフェライトや直列の抵抗を設ける
といったものです。
ESD 環境と湿度
ESD を軽減するには、帯電防止と除電、誘発に留意します。
床面の絶縁抵抗が高いと帯電電圧が高くなります。
床面に導電性または除電性のコーティングまたはワックスの使用は、
湿度レベルに関係なく、電荷の発生を減らすために既存の施設で有益です。
除電性コーティングは歩行による帯電電圧を約 1/10 に減らします。
人体への帯電を軽減するには雰囲気の相対湿度を高くするのが有効です。
相対湿度が 15 % 時に比べて相対湿度が 35 % のときには帯電電圧が約 1/2 に、
相対湿度 60 % のときには 1/5 〜 1/10 程に低減されます。
スパーク(アーク放電)は電子なだれ過程で、それにはそれを引き起こす初期電子が必要です。
その初期電子の発生源が重要で初期電子を供給する全ての要因の中で湿度が支配的です。
空気中の湿気が電極となる表面に水の層を形成して電子は簡単に付着され、しかしまた電子は水分子の高い極性により分離されます。
初期電子がたくさんあるとスパークはより長い距離から発生して、放電電流の立ち上がり時間が遅くなりピーク値が低くなります。
REFERENCE : W. Fayu, D.E. Swenson, M. Hillstrom, D. Pommerenke, C. Stayer,
"The Effect of Humidityon Static Electricity Induced Reliability Issuesof ICT Equipment in Data Centers — Motivation and Setup of the Study",
ASHRAE Trans. 119 (2) (2013) DE-13-031.
Q1 によるシャントに直列な寄生インダクタンスのせいで瞬時にはスパイクを制限
出来ない場合には、Q1 の 5 ピンから 4 ピンまたは 6 ピンへ放電する可能性があります。
T+, TP1, R3, Q1A-5 の部分は漏れ電流に敏感な箇所であるため、基本的には GND とのギャップを
約 1.2mmと広くとってあり、Q1 の 5 – 6 ピン間、5 – 4 ピン間のギャップ
だけが約 0.2 mm と狭くなっているからです。
fig.20 [トランジスタのパッケージ SOT363]
ESD により Q1 の 5 ピンから 4 ピンへ放電した場合には、
R2 を介して GNDへと放電されるため特に問題はありません。
Q1 の 5 ピンから 6 ピンに放電した場合には、
直列の抵抗 R12 と 電源に接続された C1 がローパスフィルタとして働いて電圧の立ち上がりを制限します。
その電圧が正の場合には D1 を介して電源に接続されているキャパシタ C5 から R11 および R13 を介して電池へと放電されます。
その電圧が負の場合には、U1A 内部の保護抵抗及び保護ダイオードを介して GND へと放電されます。
保護ダイオード D3 が接続されている場合には主な放電経路は D3 となります。
電子機器に ESD 試験は欠かせませんが、F0114A は微小レベルを扱う検知器であるため、
そのターミナル T+ は、
ESD の規格 IEC-61000-4-2 では ESD の警告をつけて試験適用外にする箇所かもしれません。
fig.1 では Q1, R12, D1, D3 によって U1A の入力電流が制限されています。
また、万が一、ラッチアップを起こしたり、短絡モードで壊れた場合などに備えて電源には電流制限や
ヒューズ等の保護素子を設けます。fig.1 では R13 が電源電流制限抵抗として使用されています。
スパークギャップ
スパーク(急速なアーク放電)は、電気力線が集中し電界強度の高い場所で最初に発生しがちです。
また、プリント基板の用に誘電体上にある電極間では、沿面にそって放電しやすくなります。
いちどアーク放電が起こると電離されて急速に電流が流れ消弧電圧以下に下がるまで、
その箇所で電流が流れ続けることになります。
したがって、アーク放電が起きやすい箇所を意図して設計することにより、
ESD による放電箇所をある程度制御できる場合があります。
空気中でアーク放電を起こす距離と電圧は放電開始電圧と気圧の実験式
放電開始電圧と気圧の実験式
E s : 空気の火花電界 [kV/cm]
l : 放電開始ギャップ長 [dm]
δ : 相対大気密度
大木正路: 高電圧工学, p.84, 槇書店 (1982)
によると下図の様になっています。
[距離と放電電圧]
[標準大気モデルにおける高度と気圧の関係式]
P 0 : 海面気圧 [hPa] (1013.25hPa = 1気圧)
P : 現地の気圧 [hPa]
h : 現地の標高 [m]
T : 現地の気温 [°C]
※但し、対流圏(約11kmmまで)でのみ適用可
私達、電子技術者がよく空間絶縁の電界強度の目安として 1 kV/mm を使うのは、
標高 11kmまでの対流圏における気圧の範囲に相当する 1〜0.3 気圧において、
まだ放電を開始しない電界強度としてちょうど良いからです。
9. 圧電サウンダ駆動回路
出力バッファ
fig.1 において U1A による発振回路出力 NL とそれを U1F で反転した NH の差動信号を
U1B と U1C および U1E と U1D を並列接続した反転バッファを介し
C4 を経て圧電サウンダ PZ1 をフルブリッジで駆動する差動信号 PE+, PE- としています。
圧電サウンダのインピーダンスは非線形で駆動電圧によって変動しますが、
カタログ値の 12 mA (30 V, @ 4 kHz)
からインピーダンス |Z | ≈ 2.5 kΩ で、
実測値でも |Z | ≈ 2.4 kΩ (2.5V, @4kHz) と程よく合っていて、
6 V での駆動電流は高々 2.5 mA 程度と推測されます。
fig.21 [圧電サウンダのインピーダンス特性]
fig.22 [圧電サウンダの簡易等価回路]
出力保護
R5, R6 および R7, R8 は U1E, U1D および U1B, U1C の出力保護抵抗です。
これらの保護抵抗は並列接続される反転バッファに対しては、
出力変化の遅延時間の違いによる貫通電流に対して保護し、
差動出力においては、PZ1 の容量を充電する過渡電流の制限を行います。
また、出力保護抵抗は PZ1に不測の外力が加わったときに発生する電圧に対して U1
の各出力を保護する働きがあります。
U1 : 74HC14 のデータシートに記載はありませんが、実測やシミュレーションによると、
V dd = 3.3 V 時の負荷抵抗 50 Ω に対して
I OL < 20 mA, I OH < 20 mA ですので、
1 差動ペア辺り 66 Ω の出力保護抵抗で最大出力電流 25 mA を越えず、
2 差動ペア合計の最大電源電流 50 mA を超えることは無いと考えられます。
PZ1 に不測の外力が加わったときに発生するサージに対しては、
1 差動ペア辺り 66 Ω の出力保護抵抗と、
U1 : 74HC14 内部の出力クランプダイオードで U1 の出力は保護されます。
U1 の最大出力クランピング電流は 20mA で、そのときのクランプ電圧 V clamp を約 0.5 V とすると、
20mA × 66 Ω + 2 * 0.5 V ≈ 2.3 V 程度までのサージに耐えることができます。
直流阻止キャパシタ
fig.1 において発振動作を行っていない待機状態では Vdd 相当の電圧が印加され続けることになるため、
イオンマイグレーション (electrochemical migration) 防止のために、
直流阻止キャパシタ C4 と直流シャント抵抗 R9 が必要となります。
C4 は PZ1 のインピーダンスに対して、
可聴周波数下限で十数倍低いインピーダンスとなるように選びます。
PZ1 は電気的に低域ではほぼキャパシタの様に見えますので、
PZ1 の低域での容量に対して C4 の実効容量が十数倍となるように選んでいます。
R9 は PZ1 の駆動時に大きな損失とならないように PZ1の 4 kHz 駆動時のインピーダンスに対して十倍以上としています。
圧電サウンダ (piezoelectric sounder)
圧電サウンダは、ピエゾ効果を有する薄板の圧電セラミックスに金属蒸着により電極を形成したものを黄銅やニッケルなどの金属板に接着したものです。
交流の電圧が印加されることで圧電セラミックスが伸縮を繰り返し屈曲振動を生じることで音波を発生させることができます。
電気的には共振点と損失のあるキャパシタのように見えます。
製品にもよりますが 10 nF 〜 30 nF 程度の容量で直流を通しません。
圧電サウンダは、駆動電流による磁界とローレンツ力を利用するダイナミックスピーカーと異なり、
電圧で駆動するため十分な音を出すためには十分な電圧振幅が必要です。
低電圧電池動作の他励発振回路では、振幅を稼ぐために差動フルブリッジで駆動することもよく行われています。
[圧電サウンダの音響周波数特性例]
16.8 nF 〜 31.2 nF (@100 Hz, 1 V), 12 mA (30 V, @ 4 kHz)
CUIdevices, CPT-2207-95-SMT のデータシートより転載
圧電サウンダの圧電セラミックス上に形成される電極は、
通常は銀を蒸着した薄膜で作られています。
直流電圧が印加されている状態で長時間高温多湿環境下に置かれた場合には、
イオンマイグレーション (electrochemical migration) により、
電極の破損または短絡が起きることがありますので、
圧電素子に、直列に直流阻止用のキャパシタと、並列にシャント抵抗を入れることが推奨されます。
[経年変化した圧電サウンダの電極]
電池動作のコストセンシティブな民生用機器では端折られることも多々ありますが、
多くの場合は電極の破損を嫌って銀メッキ電極側が陽極になるように接続されます。
音声信号などの直流素子キャパシタなど、アナログ信号経路に入るキャパシタには通常、
電圧による歪の少ない C0G 特性のセラミックキャパシタや固体タンタル電解コンデンサ、
あるいはアルミ電解コンデンサが用いられます。
しかしながら、ピエゾサウンダのような、その名の通りそれ自体に圧電効果があって、
そもそも酷く歪む素子用の直流阻止キャパシタには、
それよりはましな X5R や X6S 特性のような高誘電率系の MLCC (Multi-Layer Ceramic Capacitor, 積層セラミックキャパシタ) で十分です。
fig.1 における C4 には直流印加特性がそれほど酷くなくて物理的にも丈夫な
2012M サイズで厚みが 1.25 mm の MLCC で、 X5R | X6S | X7R 特性のものを用いています。
PZ1 によるサージ電圧の可能性から耐圧は 10 V 以上としています。
C4 の直流バイアス時の実効容量が最小 4 μF とすると
PZ1 と R3 の 20 Hz における並列インピーダンスの約 95 kΩ に対して、
約 1.6 kΩ となって十分低くなっています。
fig.23 [高誘電率系 MLCC の直流電圧印加特性例 (X5R, X6S, X7R 特性)]
TDK, C2012X7R1A106M125AC : 10V, X7R, 2012M, t 1.25
TDK, C2012X6S1C106M125AC : 16V, X6S, 2012M, t 1.25
TDK, C2012X5R1V106M085AC : 35V, X5R, 2012M, t 0.85
TDK, C1608X6S1A106M080AC : 10V, X6S, 1608M, t 0.8
MLCC の直流電圧印加特性はおよそ、
同じ温度特性ならサイズが大きいほうが良く、
同じサイズなら厚みが大きいほうが良く、
同じサイズと厚みならば温度特性の良いもののほうが良くなっています。
サイズが 2012M サイズを超えるものでは、基板のたわみにより物理的に破損しやすくなるため、
C4 はたわみ応力が少なくなる向きに実装しています。
10. LED 駆動回路
fig.1 の回路において、U1A の出力が "H" レベルになって C1 の放電動作を行っている時に、
U1F の出力は "L" レベルになり、VDD から LED D2 から R10 : 1 kΩ
と接続端子 TP6, TP5 を経てパネルに取り付けられている LED : NL06 が点灯します。
PCB 上の D2 : #HSMA-A101 は単体実験用のため通常は未実装です。
LED : NL06 に流れる電流は、U1F の "L" レベル出力電圧 V OL = 0 V、V DD = 3 V とすると、
25 °C 近辺において、NL06 の特性図 fig.24 (AlInGaP AMBER) より D2 の動作点はおよそ、1.85 V, 1.15mA と求められます。
fig.24 [LED 順方向電圧–電流特性例]
Avago, NL06 のデータシートより転載
もし LED の SPICE モデルが得られる場合には、ここで
R s をダイオードの直列内部抵抗、 R OL を U1F のローレベル出力抵抗、
R 10 を R10 の抵抗値、V DD を VDD の電圧とすると、
R = R 10 + R s + R OL 、
V in = V DD として、
V f は次の式より計算できて I f = V f / R となります。
… (17)
… (2)
… (18)
Eg : energy gap 1.11 [eV]
k : Boltzmann constant 1.380649 × 10-23 [J K-1 ]
q : elementary charge 1.602176634 × 10-19 [C]
n : emission coefficient
T 0 : Nominal temperature in Kelvin. 273.15 + 27 [K]
T 1 : Junction temperature in Kelvin. 273.15 + T j [K]
XTI : Saturation current temperature exponent. Usually equal to 3 for junction diodes, 2 for Schottky barrier diodes.
11. 電源(電池)
F0114A の回路は電源(電池)の逆接続に対する保護は限定的です。
電池は+−を逆に入れてはなりません。
消費電流
F0114A 消費電流 (V dd = 3.2V, T a = 25°C)
待機時 (typ) : 4 μA
鳴動時 (typ) : 1.6 mA
電源供給
保護
F0114A は被測定デバイス DUT および商用電源からの電気的絶縁のために電池動作となっています。
fig.1 において、BH1 はコイン型リチウム電池 CR2032 オプション用の基板上のバッテリホルダです。
BH1 を使用しない場合には、BT+, BT- に単4電池2本用のバッテリホルダが接続されます。
電源の逆接続に対する回路保護は限定的であるため、バッテリホルダにおいて逆向きに電池の挿入が出来ないように
物理的に制限されるべきです。
R13 は電源(電池)の尖頭電流を制限するための保護抵抗です。
万が一 U1 がラッチアップや C3 等が短絡故障を起こした場合、
あるいは電池が逆接続されて D1, D3 あるいは U1 が導通した場合には
R13 の焼損覚悟で電池が短絡とならないようにします。
F0114A は該当しませんが、扱う電力が大きな場合やリチウムイオン電池のような高出力が可能な電池の場合には、
必ず電力ヒューズやリセッタブルヒューズ
(PPTC : Polymeric Positive Temperature Coefficient device, ポリヒューズ、ポリスイッチ) を用います。
デカップリング
ある回路部分が他の部分に与える影響を低減することをデカップリング (decoupling) と言い、
特に電源系でその用途に用いられるキャパシタのことをデカップリングキャパシタと呼びます。
俗にパスコン (bypass capacitor) とも呼ばれることがありますが、
パスコンは(直流に重畳した)交流の経路に使用するキャパシタのことなので多少意味合いが異なります。
デカップリングキャパシタは、電源に直列に入れる抵抗や、
損失分のあるチップフェライト等のチョーク (Choke) 素子や配線と併せて用います。
fig.1 において、R13 はまた、C3, C5 と併せて電源電流を平滑し、また鳴動時の電源の配線及び電池からの不要輻射を低減します。
C3 は、積分キャパシタ C1 の放電時とその直後のパルス的負荷電流を供給するのが主目的のデカップリングキャパシタで、
C5 は、信号入力部の高周波的バイパスが主目的のキャパシタです。
負荷による電源電圧の変動 ΔV DD は、積分キャパシタ C1 の放電時の電荷とピエゾサウンダの電荷を C3, C5 に再分配したときの
電圧変動と LED D2 の電流と ピエゾサウンダの直流分による電流がほとんどですので、
V OD = 2 (V OH - V OL ) ≈ 6 V,
C DCP = C 3 + C 4 ≈ 6.6 μF
として、
ΔV DD = (V H C 1 + V OD C PZ1 ) / C DCP
+ (I R10 + V OD / R PZ1 ) R 13
≈ (0.5 V × 1.1 nF + 6 V × 20 nF) / 8.8 μF + (1.15 mA + 6 V / 5 kΩ) × 10 Ω
≈ 18.2mV + 23.5mV ≈ 42 mV
程度の変動が見込まれます。
回路の安定動作や不要輻射の低減のため、このデカップリングキャパシタは、電源に直列のインピーダンスと併せて、
ある回路部分の電源電圧の変動が電源電圧の ± 2 % 以内に収まること目安として決定しています。
fig.25 [電源電流波形測定例] (Vbat = 3.16 V, C1 = 1.1 nF, C3 = 15 μF, R13 = 10 Ω, Ta = 25 °C)
BW : 100 MHz, 250 MSa/s, Averaging : 32
Ch1 : Supply current, 10 mV/mA (i.e. R13 : 10.0 Ω), Ch2 : Output voltage at R7 and R8
電源用大容量 MLCC (Multi-Layer Ceramic Capacitor, 積層セラミックキャパシタ)
fig.1 中の C3 のように電源のデカップリングに多用される高誘電率系
(BaTiO3 系, EIA Class II X5R や X7R 特性等) の MLCC は、
印加される直流電圧により容量が減少しますので、それを見込んで設計する必要があります。
高誘電率系の MLCC では許容差以外に、温度とエージングで -50 %、
直流電圧の印加では場合によっては -90% といった容量の減少があり得ます。
fig.1 中 C3 の例では、公称容量の 22 μF (10V, X5R, 1608M) も 3.0 V 印加時では 9.0 μF に低下しています。
fig.26 [容量 – 直流電圧特性 (22 μF, 10 V, X5R, 1608M)]
Murata, GRM188R61A226ME15D の SimSurfing より転載
fig.27 [容量 – 温度特性 (22 μF, 10 V, X5R, 1608M)]
Murata, GRM188R61A226ME15D の SimSurfing より転載
高誘電率系の MLCC の絶縁抵抗は一般に低誘電率系の MLCC よりも低いため、
低消費電流回路の電源のデカップリング用に用いる場合には、
MLCC の漏れ電流を確認しておく必要があります。
fig.1 に於いて、C3 : 22u/R に採用している MLCC は GRM188R61A226ME15D (Murata) ですが、
その仕様によると、
GRM188R61A226ME15
■ Specifications and Test Method
5 Insulation Resistance (I.R.) More than 50 Ω·F
となっています。50 ΩF / 22 μF ≈ 2.7 MΩ で、電源電圧が 3V のときには最大 1.32 μA の漏れ電流があるということになります。
また、EIA Class II の MLCC はエージングにより容量が減少していきますので、
20 %程度の容量の減少を見込んでおく必要があります。
MLCC の温度特性
MLCC の温度特性は、EIA RS-198 や IEC/EN 60384-8/21 で規定されています。近年は、EIA の温度特性コードが広く用いられています。
EIA class I の温度特性のコードは、温度係数、温度係数の乗数、温度係数の許容差を3つの文字で表します。
[EIA RS-198 class I の温度特性コード]
温度係数 Α [10-1 /K] 温度係数の乗数 温度係数の許容差 [10-1 /K]
C : 0.0 0 : -1 G : ±30
B : 0.3 1 : -10 H : ±60
L : 0.8 2 : -100 J : ±120
A : 0.9 3 : -1000 K : ±250
M : 1.0 4 : +1 L : ±500
P : 1.5 6 : +10 M : ±1000
R : 2.2 7 : +100 N : ±2500
S : 3.3 8 : +1000
T : 4.7
V : 5.6
U : 7.5
例えば、U2J 特性は -55 °C から +125 °C の使用温度範囲で、容量変化率が -750 ppm/K ±120 ppm/K であることを示します。
EIA class II の温度特性のコードは、下限温度、上限温度、容量変化率を3つの文字で表します。
[EIA RS-198 class II の温度特性コード]
下限温度 [°C] 上限温度 [°C] 容量変化率 [%]
X : -55 5 : +85 F : ±7.5
Y : -30 6 : +105 R : ±15
Z : +10 7 : +125 S : ±22
8 : +150 T : +22 / -33
U : +22 / -56
V : +22 / -82
例えば、X5R 特性は -55 °C から +105 °C の使用温度範囲で、容量変化率が ±15 % であることを示します。
MLCC の直流電圧印加特性
あるいは DC バイアス特性と呼ばれる特性は、
キャパシタに DC 電圧を印加した時に実効静電容量が変化 (減少) してしまう現象です。
この現象はチタン酸バリウム系の強誘電体を用いた高誘電率系 (EIA Class II, X7R, X5R 特性等) に特有のものです。
導電性高分子キャパシタやフィルムキャパシタ、酸化チタンやジルコン酸カルシウム系の常誘電体を用いた低誘電率系 (EIA Class I, C0G 特性等) の MLCC ではほとんど起こりません。
[容量 – 直流電圧特性例 (TDK, Cシリーズ)]
TDK, C シリーズ, SEAT より
一般的に同じ容量と耐圧とサイズなら、X5R 特性より X7R 特性の方が直流電圧印加特性は良く、
同じ容量と温度特性なら、
サイズや厚みや耐圧が大きいもののほうが直流印加特性は良いです。
なぜなら直流電圧による実効容量の減少は、
強誘電体にかかる電界によって自発分極が整列していくことに起因するため、
MLCC の内部電極間の誘電体の厚さが大きいものの方が少ないからです。
ただし厚みや耐圧が大きいものや特性の良いものは値段も高いので、
コスト・パフォーマンスと実装面積等の兼ね合いで MLCC を選定します。
高誘電率系 MLCC のエージング
MLCC のエージングは、一般に強誘電率系キャパシタの静電容量の経時的減少を指します。
このエージングの発生は温度や時間による強誘電体の結晶構造の変化に起因するため不可避ですが、
可逆的です。
エージングにより静電容量が小さくなったキャパシタが、はんだ付け等で再度キュリー温度(e.g. 125 °C)以上に加熱されると静電容量は回復し、
その時からまた新たにエージングが始まります。
fig.n [キャパシタのエージング特性例]
"What is the Capacitance of this Capacitor? ", Steve Maloy, TDK Components USA, Inc., 2016-06-07 より転載
エージングにより容量は指数的にほぼ直線的に減少するので、エージングは通常 10 h 経過後の (per decade hour) 容量減少率で表されます。
電池寿命
F0114A は低消費電流で長期間に渡って電池交換が不要であるため、
使用する電池には自己放電が小さく液漏れを起こしにくい
「10年保存可能」のように長期間の保存を謳った電池や、
低自己放電形のニッケル水素電池が推奨されます。
単4形アルカリ乾電池 (LR03) を2本使用した場合
終止電圧を 1.1 Vとして
低電流動作時の電池容量は参考グラフより20 °C 近辺で約 1000 mAh と読み取れます。
アルカリ電池の自己放電を仮に 5 年で 2 割減とすると電流換算で 5 μA 程度となります。
fig.28 [単4形アルカリ乾電池 (LR03) 定電流放電特性]
Maxell, LR03 のデータシートより転載
F0114A の 待機電流は約 4 μA なので電池の自己放電と同程度と言えます。
最大待機日数は、1000 mAh / (5 + 4) μA / 24 h/day ≈ 4630 day (約 12.5 年) となります。
一方鳴動時の電流は約 1.6 mA で、一日に延べ 6 分間(0.1 h)使用した場合の使用可能日数は、
1000 mAh / (1.6 mA * 0.1 h + 5 μA * 24 h/day) ≈ 3570 day(約 9.7 年)となります。
単4形ニッケル水素電池 (BK4-MCC) を2本使用した場合
低自己放電モデルの単4形ニッケル水素電池 (BK3-MCC) の場合、
終止電圧を 1.1 Vとして
低電流動作時の電池容量は参考グラフより 25 °C で約 750 mAH と読み取れます。
ニッケル水素電池の自己放電を仮に 5 年で 3 割減とすると電流換算で 5 μA 程度となります。
fig.29 [単4形ニッケル水素電池 (BK4-MCC) 定電流放電特性]
Panasonic, BK-4MCC-AE のデータシートより転載
最大待機日数は、750 mAh / (5 + 4) μA / 24 h/day ≈ 3470 day (約 9.5 年)、
使用可能日数は、750 mAh / (1.6 mA * 0.1 h + 5 μ A * 24 h/day ) ≈ 2680 day (約 7.3 年) となります。
コイン型リチウムイオン乾電池 CR2032 を使用した場合
終止電圧を 2.2 Vとして参考グラフより待機時の消費電流では 225 mAh 程度の電池容量となります。
鳴動時の消費電流の約 1.6 mA というのは CR2032 に対しては重い部類の負荷になるため、
連続放電時の電池容量は、20 °C 近辺でおよそ 180 mAh と減少します。
CR2032 の自己放電を仮に 1 年で 1 % 減とすると電流換算で 0.2 μA 程度となります。
fig.30 [コイン型リチウムイオン乾電池 CR2032 連続放電特性]
Maxell, CR2032 のデータシートより転載
fig.31 [コイン型リチウムイオン乾電池 CR2032 温度電圧特性]
Maxell, CR2032 のデータシートより転載
最大待機日数は、225 mAh / (0.2 + 4) μA / 24 h/day ≈ 2230 day (約 6 年)、
使用可能日数は、180 mAh / (1.6 mA * 0.1 h + 0.2 μ A * 24 h/day ) ≈ 1090 day (約 3 年) となります。
12. プリント回路基板 (PCB, Printed circuit board)
プリント基板材料には、絶縁性能と強度の観点から
FR-4.0 ガラス布基材エポキシ樹脂片面銅貼り積層板(厚さ 0.5 mm、銅箔厚さ 0.035 mm)
を使用しています。片面レジスト付き鉛フリーはんだ (JIS Z 3282:2017 A30C5) レベラー処理となっています。
基板材料の絶縁性は十分ですが、漏れ電流に敏感な回路なので部品実装後に基板洗浄が必須です。
FR-4.0 (e.g. R1705 (Panasonic) 等) の絶縁性
体積抵抗率 : 10 TΩ (JIS C 6481, C-96/20/65+C-96/40/90)
表面抵抗 : 100 TΩ (JIS C 6481, C-96/20/65+C-96/40/90)
fig.32 [プリント回路基板]
F0114A の PCB の設計ルール上の最小ギャップは 0.2 mm です。
0.2 mm のギャップは 180V のピーク電圧を分離できる距離となっています。
機能絶縁 (functional-insulation)
機器が正しく動作する上で必要な絶縁である機能絶縁 (functional insulation) としては、IEC-60950-1 : JIS C6950-1:2012 2.10.6.2項 などで定められています。
沿面距離参考 (IEC-J60950-1 コーティングを施したプリント配線板, 機能絶縁) :
分離距離 ピーク電圧
0.1 mm 90 V
0.2 mm 180 V
0.3 mm 230 V
0.4 mm 285 V
0.6 mm 355 V
0.8 mm 455 V
1.0 mm 570 V
1.3 mm 710 V
1.8 mm 895 V
2.4 mm 1135 V
2.8 mm 1450 V
3.4 mm 1800 V
4.1 mm 2300 V
5.0 mm 2850 V
6.3 mm 3550 V
機能絶縁とは機器本来の動作のためだけに必要な絶縁で、
感電を保護するものではありませんが、発火及び火災の発生を減少できます。
13. 仕様
絶対最大定格
動作温度 : -10 ~ 60 [°C] (凍結や結露の無いこと)
保存温度 : -10 ~ 80 [°C] (凍結や結露の無いこと)
電源電圧 : -0.5 ~ +6.0 [V]
入力電圧 : -6.0 ~ +6.0 [V]
推奨動作条件
動作温度 : +5 ~ +35 [°C]
相対湿度 : 45 ~ 85 [%] (結露の無いこと)
電源電圧 : +2.2 ~ +3.3[V]
入力電圧 : -0.3 ~ +0.3 [V]
ブザー及び LED 表示
導通時 : ブザー鳴動と共に LED 点灯(点滅)
非導通時 : ブザー鳴動せず LED 消灯
負電圧印加時 : ブザー鳴動せず LED 点灯
電源
単4形アルカリ電池(LR03) ×2本 または
単4形ニッケル水素電池 (HR-4UTG, BK-4MCC) ×2本 または
CR2032 コイン型リチウム電池 ×1枚 (BH1 オプション実装時)
14. 演習問題
問1: fig.1 の回路では、Q1 に NPN のペアトランジスタを用いていますが、これが2個の個別のトランジスタであった場合にはどのような問題が考えられますか。
本文中の式を参照して説明しなさい。
Q1 が2個の個別のトランジスタであった場合には、
I es1 ≈ I es2 とみなせず、
それぞれのトランジスタの温度も同一とはみなせないため、式 (4) から式 (6) のように簡略化出来なくなって、
(6') 式のようになり、I e1 と I e2 との関係が不明確になります。
… (6')
エミッタの電位差 V be1 - V be1 = 0 のときにおいても、
Q1B のエミッタコレクタ電流に比べて Q1A のコレクタ電流が大きくなった場合には、
音の高さが高くなりすぎたり、発振回路の放電電流を超えた場合には負電圧印加時と同様に発振停止となるといった問題が考えられます。
問2:fig.33 の簡略化回路について、T+ 側をグランドとして Q1 に PNP のペアトランジスタ PMP5201Y を使うように変更した回路図を示しなさい。
また、実際の回路で Q1 に PNP のペアトランジスタを用いた場合にはどのような問題が考えられますか。
fig.33 [簡略化回路]
fig.33' [簡略化回路 (PNP 版)]
C1 の放電時には J1 経由で放電するため、発振回路の動作のためには、
U1 の negative-going threshold V T- は J1 の順方向電圧降下分より大きい必要があります。
U1 の V T- は U1 の電源の低電位側に偏っているため、電源電圧が低下の影響を大きく受けます。
電源電圧が低下した場合には J1 経由での放電電流が減少し、
放電電流が Q1 のコレクタ電流よりも小さくなった場合にはICOは発振を停止することになります。
電源電圧の低下の影響を大きく受けるのと、動作可能な最低電圧が高くなるのという問題が考えられます。
他には、プラス接地になるため、マイナス接地の一般的なロジック回路や片電源アナログ回路中で使用する場合に、
グランド同士を接続した場合には DUT を負電圧で試験することになったり
プラスの残留電圧があった場合には大きめの測定電流が流れることや、
逆の場合には、センシティブな T- をグランドに接続することになり漏れ電流や静電誘導の影響を大きく受けるという問題が考えられます。
またNPN ペアトランジスタの PMP4201Y の V BEO は 6 V ですが、
PNP ペアトランジスタ PMP5201Y の V BEO は -5 V と 1 V 低く、
+5V 系の回路に対する安全性が低下するという問題が考えられます。
15. Appendix 1
漏れ電流
fig.34 [JFET MMBFJ201 ゲート漏れ電流]
fig.35 [SiSBD MMBD301 逆方向漏れ電流]
fig.36 [SiSBD MMBD701 逆方向漏れ電流]
fig.37 [SiBJT PMP4201Y コレクタ‐ベースカットオフ電流]
fig.38 [SiBJT PMP4201Y コレクタ電流–コレクタ電圧特性]
接合容量
fig.39 [接合型電界効果トランジスタ MMBFJ201 接合容量]
順方向特性
fig.40 [SiSBD MMBD701 順方向特性]
fig.41 [74HC14 絶対最大定格]
Nexperia, 74HC14 データシートより転載
fig.42 [PMP4201 絶対最大定格]
Nexperia, PMP4201 データシートより転載
fig.43 [PMP5201 絶対最大定格]
Nexperia, PMP5201 データシートより転載
16. Appendix 2
ラプラス変換表 (wikipedia ラプラス変換 より抜粋
)
Web site
電子回路設計技術者育成講座 (1) F0114A - 音で判る導通チェッカ
http://www.finetune.co.jp/~lyuka/technote/f0114a/
© 2020, Takayuki HOSODA, Finetune co., ltd.