電子部品でよく見かける 22nF (0.022μF) とか 47kΩ といった値は始めて見ると 中途半端な値のように感じるかもしれません。このような値は E6系列 や E12、E24系列といって、抵抗やコンデンサの推奨値 (Preferable number) として、 IEC(International Electrotechnical Commission, 国際電気標準会議) の TC(Technical Commitie) No.40, Resistors and Capacitors によって準備され IEC 60063 (日本では JIS C 5063) に定められているものです。
1948年ストックホルムにおける IEC TC No.12, Radio-communication の会議で
最も緊急に国際標準化されるべき案件の一つは抵抗と 0.1μF までの
コンデンサのための推奨値の系列であると全会一致で合意しました。
10√10システムの系列を
標準にするのが望ましかったのかも知れませんが、いくつかの国では
前述の部品のために 5%, 10%, 20%
の許容誤差が標準化されていたために
12√10システムの系列が
採用されていて、それを変更するのは非現実であったので
12√10システムが採用されました。
1950年パリで E6, E12 及び E24系列の推奨値の提案が採択され、
追って I.E.C. Publication 63 として発行されました。
Technical Committee でどのようにしてこれらの具体的な数字が 決まったのかは残念ながら寡聞にして知りませんが、 実は E24 系列は1桁を等比級数的に24等分した値を 2桁に丸めた 値からは微妙にずれているところがあります。 それは 1桁の 1/3 程中程の 2.7〜4.7 の間になります。(表1 参照)
表1 [E24/E12/E6系列と等比級数]
E24 系列 (許容差5%) E12 系列 (許容差10%) E6 系列 (許容差20%) 12√10 等比級数 1.0 1.0 1.0 1.000~ 1.1 - - 1.100~ 1.2 1.2 - 1.211~ 1.3 - - 1.333~ 1.5 1.5 1.5 1.467~ 1.6 - - 1.615~ 1.8 1.8 - 1.778~ 2.0 - - 1.957~ 2.2 2.2 2.2 2.154~ 2.4 - - 2.371~ 2.7 2.7 - 2.610~ 3.0 - - 2.872~ 3.3 3.3 3.3 3.162~ 3.6 - - 3.480~ 3.9 3.9 - 3.831~ 4.3 - - 4.216~ 4.7 4.7 4.7 4.641~ 5.1 - - 5.108~ 5.6 5.6 - 5.623~ 6.2 - - 6.189~ 6.8 6.8 6.8 6.812~ 7.5 - - 7.498~ 8.2 8.2 - 8.254~ 9.1 - - 9.085~
そのおかげで、複数の素子の比や積を切りの良い値にしたり、やや大きめとか 小さめに出来たりして、 実際に回路設計している時にこれらの値の選択に絶妙なさじ加減に 有難味を感じることがあります。 実際の電子回路、特にアナログ回路では時定数であるとかアンプの増幅度の 決定などに部品の絶対値ではなく値の積や比が大事なことが多いからです。 特に '2.9' でなく '3.0' が採用されているおかげで 1:2:4 (75:150:300) や 1:4:5:6:8:9:10:11:12:13:17 (3:12:15:18:24:27:30:33:36:39:51)、 はたまた 6:10:12:15(1/20+1/30=1/12=1/24+1/24) のような比率が作れるのは本当に有難いです。 表2 を見ると実用上のほとんどの倍率が E24系列の比で実現出来る ことがわかります。
表2 [E24系列の比で得られる実用的な倍率の例]
x倍率 E24系列の比 (誤差) x1.1 11/10, 22/20, 33/30 x1.2 (6/5) 12/10, 18/15, 24/20, 36/30 x1.25 (5/4) 15/12, 20/16, 30/24 x1.33~ (4/3) 100/75, 16/12, 20/15, 24/18, 36/27, 68/51 x1.4 (7/5) 18/13(-1.1%) x1.41 (√2) 51/36(-0.17%), 130/91(-1.0%) x1.5 (3/2) 15/10, 18/12, 24/16, 27/18, 30/20, 33/22, 36/24 x1.6 (8/5) 120/75, 16/10 x1.66~ (5/3) 20/12, 30/18 x1.73 (√3) 130/75(-0.07%) x1.75 (7/4) 82/47(-0.3%) x1.8 (9/5) 18/10, 27/15, 36/20 x2 150/75, 20/10, 22/11, 24/12, 30/15, 36/18 x2.16~ (√10-1) 39/18(+0.2%), 11/51(+0.25%) x2.2 (11/5) 22/10, 33/15 x2.25 (9/4) 27/12, 36/16 x2.33~ (7/3) 56/24, 91/39 x2.5 (5/2) 30/12, 75/30 x2.6 (13/5) 39/15 x2.66~ (8/3) 200/75 x2.75 (11/4) 33/12 x2.8 (14/5) 56/20 x3 3/1, 33/11, 36/12, 39/13 x3.16~ (√10) 51/16(+0.79%) x3.2 (16/5) 240/75 x3.25 (13/4) 39/12 x3.4 (17/5) 51/15, 68/20 x3.5 (7/2) 56/16 x3.75 (15/4) 75/20 x4 12/3, 300/75 x4.25 (17/4) 51/12, 68/16 x4.5 (9/2) 68/15(+0.7%) x5 75/15, 10/20, 11/22, 12/24, 15/3, 180/36 x5.5 (11/2) 11/2 x6 12/2, 18/3 x6.5 (13/2) 13/2 x7 91/13 x7.5 (15/2) 120/16, 15/2, 180/24, 270/36, 510/68, 75/10 x8 120/15, 16/2, 24/3 x8.5 (16/2) 330/39(+0.45%) x9 18/2, 27/3
E24系列はきっと、切りの良い比の値も実現しやすいようにと、音階に例えれば平均律的ではなく 純正律音階的にも考えらたということなのでしょう。
抵抗の許容誤差には R系列(Renard numbers) の R3系列を1桁に丸めた 1-2-5系列が主に用いられています。
表3 [許容誤差の略号の例]IEC60062:2016 (日本国内では JIS C 5062, JIS C 60062:2019) 準拠。
略号 誤差 [%] 系列 カラーコード (S) 0.0010 (U) 0.0020 (X) 0.0025 E(V) 0.0050 L(T) 0.01 GY P(H) 0.02 YE W(A) 0.05 OG B 0.10 VT C 0.25 BU D 0.50 E192 GN F 1 E96 BN G 2 E48 RD H 3 J 5 E24 GD K 10 E12 SR M 20 E6 N 30 Q -10 +30 T -10 +50 S -20 +50 Z -20 +80
但し、() 内は抵抗メーカー (Vishay 等) による拡張例。
コンデンサの容量には主に E系列が使われていますが、
その定格電圧には R10標準数(Renard numbers)を元にした値が使われています。
コンデンサの定格電圧は第1文字を数字として指数を、第2文字を英大文字として仮数部を表しています。
仮数部は R10標準数 {1.0, 1.25, 1.6, 2.0, 2.5, 3.15, 4.0, 5.0, 6.3, 8.0} に対し、{A, B, C, D, E, F, G, H, J, K} が対応しています。
表4[定格電圧の略号の例]
略号 | 耐電圧 [V] |
0E | 2.5 |
0G | 4.0 |
0L | 5.5 |
0J | 6.3 |
1A | 10 |
1B | 12.5 |
1C | 16 |
1D | 20 |
1E | 25 |
(1V) | 35 |
1G | 40 |
1H | 50 |
1J | 63 |
1K | 80 |
2A | 100 |
(2Q) | 110 |
2B | 125 |
2C | 160 |
(2P) | 180 |
2D | 200 |
2E | 250 |
2F | 315 |
(2V) | 350 |
2G | 400 |
(2W) | 450 |
2H | 500 |
2J | 630 |
3A | 1000 |
3B | 1250 |
3C | 1600 |
3D | 2000 |
余談ですが、JIS C 5101-1:2010 (IEC 60384-1:2008) の、
2.3.3 定格電圧の推奨値には記載されていた、
注記 2 特に,必要がある場合には,R20標準数列の 35V,350V 及び 450V の定格電圧を用いてもよい。の一文が JIS C 5101-1:2019 2.3.3 では削除されたため、
JIS C 5101-8:2018 (IEC 60384-8:2015) 一部抜粋
温度特性 温度係数
ppm / ℃温度係数誤差
ppmカラーコード C0G 0 ±30 Black P2G -150 ±30 Orange R2G -220 ±30 Yellow S2H -330 ±60 Green T2H -470 ±60 Blue U2J -750 ±120 Violet SL +350 ∼ -1000 Gray 零温度係数(C0G特性等)以外の温度補償用セラミックキャパシタは、P2G, U2J 特性のものを僅かに残して 2023 年現在ほぼ絶滅しています。