梨本塾夏スペシャル2時間耐久レース参戦記
Updated on Jul. 31, 2001

梨耐賛歌

真夏の光が降り注ぐ。シールドに雑草の輝く緑が反射する。 太陽がアスファルトを融かし、アスファルトはタイヤを融かす。 100KWを出力するエンジンは容赦なく身体から全ての水分を奪い去っていく。 光と熱が意識から理性を奪おうとし、動物的な生存本能に似た感覚が蘇ってくる。 エグゾーストノートの渦の中にタイヤの囁きと遠くに鳴くホトトギスを聞き分け、 後ろに迫るものは気配で感じ、右手はタイヤに直結している。 ダイナミックバランスのダンスを踊っているようなハイテンション。 崖を駆け降りる動物のように目が耳が腕が腰が全てを同時に感じとっている。 五感から脊椎反射で行動している動物的自分を、風景のようにクールに観察している自分がいる。

土浦エンジェル?ともこ 梨本塾2時間耐久にエントリーした。セティングがまあまあ決まって、 膝も大分安定して擦れるようになって、「土浦で 0.5s くらいは速くなってるかな」と思いつつも、 対梨耐の最大の問題は私の場合「暑さ」である。 前回初参加の梨塾で「死んじゃいそう」になったので、その後、Cool Max! なインナーウェアをゲット、 湾岸某所でその性能を試してみた。 「暑くてもうだめ、死んじゃう」ってレベルから「暑くて汗だくだくだぜー」程度には 改善されて、ちょっと不安が減った。 この性能にちょっと感動して、同様の素材のパンツも探して手に入れた。 ヘルメットの中に滞る熱気を減らすために梨耐前日にばっさり散髪した。 9Rのオイルも梨耐直前に交換し(Motul 300V competition 15W-50) GRP も添加した。 チェーンも調整して注油し、LLCの水の割合を増やした。 ブレーキパッドとローターも先日交換して当たりも取れている。 タイヤは炎天下でのタイヤの持ちを考え、最近交換した Pilot Sports が8分溝くらいあるので このままでいくことにした。後は十分な睡眠だけである。

そして、ちょっと恨めしいほど快晴の梨耐当日。練習走行が始まった。余裕で膝が擦れている。1コーナーもヘアピンも最終コーナーも安心して安定して回れてる。 JACQUES がタイムを計ってくれていた。30.2s だった。0.9s 速くなっていた。嬉しい。 調子に乗って試行錯誤してたら、さっき、1コーナーからS字でインから抜くときにアウト側に1ライン分残してあげれずに コース幅全部使ってしまって、1台土手に弾き飛ばしてしまった。でも転ばなかったみたいで良かった。ごめんなさい。 約20分の練習走行で心身の疲労具合を図り、30分身体と気力を持たせるために、自己ベストの 0.5s 落ちくらいのつもりで行くことにする。 相方のバッキーこと秋山さんとは、「タイムを落としてでも完走を狙う」方向で行くことで方針を決めた。 塾長 Nancy のブリーフィングが始まる。 つまり「真夏の暑い一日を楽しもう!」と「無理せず安全に完走しよう!」ってこと。それと、 「上級者は『愛』を持って抜くように!」うわーっ、さっきの弾き飛ばしのことかしらん?反省!
梨耐スタート ブリーフィングが終わり、いよいよ、梨耐が始まる。耐久レースの伝統に則って「ル・マン」式スタートだ。 第一走者の相方のスタートを見守る。バイクに駆け寄りスタートする。1コーナーを無事に抜ける#22番のZZRを見届け、 ちょっと安心する。重いバイクのフロントタイヤのたれを心配しつつ、安定して周回する#22番を 見守る。自分の番に備え首筋に水をかけインナーごと身体を冷し、脱水症状で意識が朦朧とするのを防ぐため、 スポーツドリンクを1リットルくらいがばがば飲んでいた。 そのとき、イエローフラグが振られた。1台のバイクがコースアウト。誰?ライダーは大丈夫みたい。ふぅ。 コースアウトしたライダーには悪いと思いつつ、イエローフラグ中は、ちょっとは相方の休憩になるなって思う。 ちょっと長く感じたイエローフラグの後5分程で第1セッションが終わり相方が戻ってきて、私の番がやってきた。 相方はかなり疲労している。「頭から水を被ってよーく身体を冷やして水分をとって」って 言いつつ、コンセントレーションは自分のライディングに向かっている。
アッキー V.S. りゅか It's my turn! がんばる! 走り始めた。すぐに、ところどころ団子状態の集団ができている。 割と狭く抜きにくいコースだからだ。 何周かするうちにパシングポイントがわかってきた。 パワーを生かして最終コーナーの立ち上がりとストレート前半、 タイヤのグリップと相談しつつ1コーナーの突っ込みと、 トルクを生かして加速しつつS字の切り返し、 ヘアピンはインに突っ込み、コンパクトに回って最終コーナーへの短い直線をきっちり加速。 最終コーナーは無理せずがまん。
走行を始めて10分程すると、 ストレートエンドのブレーキングでタイヤが前後ともじたばたするようになってきた。 乗り方を変えてみる。 ストレートを1速吹け切りで走っていたのを、1速 9,000rpm で2速に入れてからちょい加速後ブレーキング。 ブレーキ序盤でリアブレーキをほとんどリリースして 中盤からアクセルをちょいと開けつつ半クラッチでシフトダウン。 ブレーキ荷重をスパッと減らしてコーナリングに入るようにしたら、大分ましになった。 ほとんど練習走行気分で試行錯誤の時間が過ぎていく。だって生まれて初めてのレース。 わからないことだらけ。全てが、疲労していく身体さえが新鮮。 20分少々過ぎた頃、転倒車もないのにイエローフラグ。多分オフィシャルの判断で クールダウンを少し入れてくれてるんだと思う。 緊張が少し解け、リズムが失われ、ふらつく。自分が呼吸していたのに気がつく。 休めるのが嬉しい反面、コンセントレーションとタイヤの グリップが失われていくのが焦燥感になっていく。じりじりとした時間の後グリーンフラグ。 身体にリズムが戻る頃、第2セッション終了のフラグが振られた。

プールが嬉しいりゅかと田宮さん 「ぐえーっ。暑い〜。」心配そうに駆け寄ってきた妻(ともこ)もほっぽって、ふらつく足でツナギを脱ぐのももどかしく、 スタッフと常連ユミの用意してくれたプールにインナースーツのまま飛び込む。そして、 流木のように冷たい水に浮き沈みする。しばらくして、身体がちょっと冷えたとたん、叫ぶ。
「ともこー!アクエ○○ス、1リットルー!」
水分を補給し、首筋に冷水をかけ、一息ついて、
「うぉ〜〜っ!気っ持ちいい〜〜っ!」
去年の8耐やもて耐観戦では、決して分かることの出来なかったことが一つ骨身にしみてわかった。
「Nancy って、いや耐久レーサーって、本当にすごい!」
たった30分で、こんなにへろへろになるのに、もっとすごいレベルで1時間×4とか 出来ちゃうんだ。でも、どうして出来るのかもちょっと分かる。まだレースは終わっていないけれど、 すっごく気持ちいい充実感が体中に湧き起こって来てるから。

ユミ V.S. りゅか 休んでいる間に、第3セッションが始まったけれど、相方の応援もそこそこに自分の 体力回復に努める。後20分程しか回復のための時間は無い。 後の5分程はコンセントレーションと体調をレース用に戻すのに必要だ。 あっという間に休息の時間は終わりを告げ、第4セッションが始まる。 ちょっとレースに慣れた気がする。 スタートでまだタイヤの暖まっていないうちにできるだけ遅いバイクをパスして前に出る。1周でタイヤは暖まる。 第2セッションでタイム的に近いライダーのライン取りの癖は覚えたので、 S字やヘアピンのライン取りや最終コーナー立ち上がりで割と簡単にパスすることが できるようになった。 大分余裕もでてきて、XJRで頑張ってるみんなのアイドル?ユミを 『愛を持って』パスするときなんかピースサインを出したりしてる。 タイヤのグリップの低下具合なんかも大分わかるようになってきて、無理してペースを上げて 走るとその後、タイヤのグリップが低下してトータルで遅くなるから、ここ一番と時以外は それに備えてグリップが最良の温度を維持して走るのが得みたいとか、第2セッションのときより タイヤカスが沢山コースに撒き散らされてるから、ラインを大きく外すとその後が全然グリップ しなくなるから損とか。 タイム的に近くて抜きつ抜かれつだった#2のウォーターウルフ対策もわかった。 2ストは回転が下がると回転が上がるまではレスポンスが悪いので、バックマーカーの 集団に引っかかったときに抜け道が少なくなるライン取りでちょっと2台一緒に失速する。 その周のタイムは、ちょっと損だけれど、低速トルクにものを言わせ加速で前に出られるので、 バトルっぽくいつまでもしているよりはタイムロスが少ない。ライディング以外の色々な ことがわかってきて、楽しくてしょうがない。だんだんということを聞かなくなってきた腰と きっちり出せない膝だけれど、まわりに較べて同程度ならば問題にならない。 8耐やもて耐で見せてもらった Nancy のスムーズ&クールな走りを思い出しながら、 最後までコンセントレーションを保って自分のレースを自分のペースで走ろうと思い、 苦しいけれど楽しい週回を重ねていた。ふと気がつくと半周先でチェッカーフラグが 振られたのが見えた。心の中で何かがすぅと下がってきた。ゴールを過ぎて 桜井カラー の CBR929RRが入ってきた。Nancy だ。そのままパレードランに移る。 さっきまで私を苦しめていた汗が、ちょっと傾いた太陽の空の下に吹く風に心地よい。 疲労と安堵と身体のほてりと充足感がごちゃ混ぜになった気持ちが新鮮だ。 リザルト?良ければ嬉しいけど、この充足感の下ではなんか大した事じゃない気がする。
レースが終了し、それぞれにプールに浸かったり、だらっとした時間が過ぎていく。 心地よい倦怠感が身体とアスファルトの上に蔓延している。あちこちでおしゃべり したり、帰り支度を始めたり、座り込んでぼーっとしたり。西の空がやや赤くなり始めた頃、 集計結果が発表され、表彰式が始まった。1位、2位と表彰されシャンペンシャワーが 次々と降り注ぐ。シャンペンシャワーと日に焼けた顔に夕陽がきらきら映える。 みんな疲れているのに最高の笑顔だ。走ってみなければ分からない、走ったものだけが 共有できる快楽がそこかしこに溢れていた。
TEAM GREEN [後書き] 相方(秋山さん)にも恵まれ、土浦エンジェルズ(爆)の応援もあって、おかげで4位。自分でびっくり。 #2のウォーターウルフの人、バトルっぽくて楽しかったです。 Nancy, 海 を始めアドバイスをくれたみんな、ありがと。S字であと 0.3s くらい縮められそうな感触だけど、それでも Nancy の ZX-9R でのレコードまであと 2.3s 気が遠い。わけわかんない。楽しい。だって、まだいっぱい学ぶ余地がある。 そして、素敵な夏の一日を用意してくれたスタッフの方々、本当にありがとう。[Jul.23.2001]

このページに掲載している画像は、秋山さん、宗一郎さん、ふなっぴさんの撮影されたものを加工して使わせて頂きました。ありがとうございます。

© 2000 Takayuki HOSODA.
www.finetune.co.jp [Mail]